[コメント] フロスト×ニクソン(2008/米)
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結局ニクソンを語る場合、後者ばかりが目立ってしまい、あたかも政治的に無能に見えたりもするのだが、実際はそんなことはなく、国際的な見地からいえば、むしろ大変有能な人物でもあったのだ。
ニクソン自身もその自負があったのだろう。ここでニクソンが何としても政界復帰を果たしたいと願っていたのは、失地回復というよりも、そのことをみんなに認めてほしいという願いがあったからではなかったかと思うから。そのためには、ニクソンが最も使い慣れた政治道具、つまりテレビを使うことが一番の早道であることを知っていたから。
考えてみたら、元大統領が一種のバラエティ番組に出るなど前代未聞の出来事だし、それを無謀と考える向きもあろう。でも、ニクソンにとってはテレビは最も使い慣れた道具であり、これを用いての攻撃を考えていたことは推測できる。更にメディア戦略を考えているのならば、相手は政治家ではなく、一般のキャスターであった方が受けが良い。色々と考えた末のことなのだろう。
しかし、テレビというのは強力な武器であるのは確かだが、それは時として自分自身を傷つけるものにもなる。ニクソンに「常にチャレンジャーであり続ける」と劇中で言わせたのは、ニクソンがその事をよく知っていたと言う事を示す出来事だったが、それは見事に的中してしまったというわけだ。
ニクソンにとってこの会談は戦いそのものだった。故にこそ本作は討論番組であると共に、言葉によって相手を屈服させるという、一種の格闘作品のようにも作られてる。強気に出る時と、守勢に回ったときの攻防がくるくると変わり、観ていて全く飽きない。基本は会話によって成り立つ話なのだが、その辺のメリハリがよく利いていて、観ていて飽きの来ない作品になってる。
ところで、この対談では映画ならではの面白い試みがされているのにも気付く。
それは他でもなく、アップになったときのフロストとニクソンの視線の向かう先。ちょっとでも心理学を囓った人間にはNLPという名称でお馴染みだが、人の視線がどこにあるかで、その人が何を考えているのかが分かるというテクニックがある(ネットにはその情報が溢れているので参照してみると良い)。人間は攻撃的になると左上を見る傾向があり(絶対的な自信を持っているときは右上)、逆に守勢に回ると左下を見る傾向がある。特に劇中に表示されるニクソンの視線の変化は見所の一つ。最後、全米にうちひしがれた表情を見せたときのニクソンの視線の行き先は…実に上手くできた作品だった。
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