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[コメント] つみきのいえ(2008/日)

例えおぼろげに揺れていようと、積み重ねられた想い出が確かに存在し続けていれば、人は決して孤独ではないということ。つまり日々の幸福と不幸の体験こそが、私たち各人の唯一無二の人生であり、誰はばかることなく人生を振り返ることができるのが老人の特権。
ぽんしゅう

夕食のテーブルに、ワイングラスを二つ置くこと。そして、そのグラスの想い出にひたり続けることが、ささやかだが何にも変えがたいこの老人の特権なのだ。誰にでも幸せな想い出と、悲しい想い出は存在する。その両方を淡々と受け入れられるようになるということが、歳をかさねるということなのだろう。であれば、本当は孤独な老人など存在しないのかもしれない。そう信じつつ、私も想い出と歳をかさねていきたいものだ。

人生を肯定的に見つめる目が優しい。大きな賞を受賞したことよりも、まだ歳若い加藤久仁生が、このテーマを見事に描ききったことに驚きを感じる。いや、逆かもしれない。若い作者だからこそ、これから歩むであろう自らの人生、すなわち「希望」の裏返しとしての「想い出」をポジティブに作品に託せたのだ。だから、この作品には老いの寂しさは漂わず、肯定的な優しさが溢れているのだ。自らの「希望」を、積みかさねられた「想い出」として描くにあたって採られた、破壊ではなく水没というアイディアと、チラチラとおぼろげに揺れる線描の、淡く控えめな美しさが秀逸であった。

(評価:★4)

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