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[コメント] ストレンジャーズ 戦慄の訪問者(2008/米)

これは断固として擁護する。OPが終わると第一ショットはまず車のハンドルを握る手のアップ、続いて運転席の男を横から捉えながら左にパンすると手前に助手席に座るリブ・タイラーの顔が見える。信号の色の移り変わりで女の頬に涙が流れているのが分かる。泣き出すのではなくて、既に泣いてる途中から始まっている。3ショット目は交差点に止まっている車を後方から捉える。ここの色彩がまた良い。
赤い戦車

・殺人者が画面内に現れる最初のショットは戦慄すべき名ショットだ。リヴ・タイラーが不安げに、しかしあくまでも無表情に部屋の中をうろうろしていく。その所在なさげな素振りをカメラは冷静に追いかけていく。そうしていくうち、画面奥の暗闇から白いマスクが次第に浮かび上がってくる。女はそれに気付くことなく、手前で不安さを堪えている。このショットには二つの異なる世界、平穏な日常と地獄が地続きであることを見事に示していて素晴らしい。ただ、一度殺人者側の主観になってしまうのが惜しい。振り返るとマスクが暗闇に消えていくとこまでカット無しでやってほしかった。

・小道具の移動で家に侵入されたことを主人公が悟るのにも「そうきたか!」と唸る。安易に言葉に換言しない、ホラー的志の高さ。それはドアやカーテンを使ったオフスクリーンからの脅かしも同様。しかし、結局最後はショック演出頼りになるのにはジャンルの限界を感じる。

・何かが起こっている時間よりも、何かが起こりそうで起こらない時間の方が映画では面白いということをこの監督は知っている。前述した部屋をうろうろするシーンや、足を痛めた主人公が前庭を這いつくばって家へと戻るシーン、或いはクローゼットに隠れるタイラーの存在を明らかに知っている風でありながら何もせずくつろいだりする殺人者、そして殺人者に引き摺られるタイラーを収めたショット。誤解を恐れずに言えば、このように何かが起こるのを待ち続ける倦怠感は、ヴェンダースの映画にも通じてはいないだろうか。

・限定された室内空間を電灯の黄色い光、停電の暗闇、暖炉の赤い光と変貌させていくのも映画の作法に適っていて大変よろしい。手持ちカメラのブレも最初鬱陶しかったのが、段々殺人者側の覗き視点みたいに思えてきて悪くない。

・殺人者の来歴、動機を全く描かないのも良い。わけわからん、理解できないのが一番怖いんだよ、と。ただし、肝心のラストショットは唯のショック演出になっていて全くダメ。ここまで積み重ねてきた格調高さを自分の手でぶっ壊してどうすんだよ。なんだ結局まぐれで撮れたのかよ、と失望してしまった。

(評価:★4)

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