[コメント] ミニヴァー夫人(1942/米)
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家に闖入したドイツ兵がいい人で、ガースンは彼を匿う、という展開のほうが映画としては面白いだろうし、理想とはそうありたいものではある。ドイツ兵も、怪我して動けない状況で「仲間がきてお前らの街を破壊するのだ」みたいなことは云わないだろう。理想的な展開に出来ないのがプロパガンダと呼ばれる所以、ということならそうかも知れない。ただ、少なくとも42年にそれは期待し過ぎとは思う。
夫人の一家は「中流階級」なのにメイドがふたりもいて裏庭に船着き場があり船持っている。いったい一家の主ウォルター・ピジョンは何の仕事をしているのか判らない。家が半壊しても余裕なのも金持ちの証拠なんだろう。専用の防空壕も豪華なものだが、ここで過ごす空襲の一晩の長い長いシークエンスはいいものだった。どんどん近づいて来る焼夷弾のヒュルヒュル音と揺れ、白煙、停電、「逃げ出したほうがいいんじゃないか」という子供の泣き声。
メイドのブレンダ・フォーブスの彼氏見送りのコメディなんかも余裕が漂うが、こういう序盤のユーモアは余計に見える。空襲後に薔薇の品評会しているのも驚き。導入の物欲のテーマは、戦中につき中断ということなんだろうが、何か半端だ。品評会で勝った【】を殺してしまうのも簡単過ぎた。
そして本作最大の欠陥は、なぜガースンは車中で撃たれたテレサ・ライトを病院に運ばず、自宅に連れて帰って救急車を呼んでいること。この処置はおかしい。車で病院に行けないなら救急車を呼んでも仕方ないだろう。
しかし、感じのいい件も多かった。喧嘩を許し合う若い二人の件は、まあ定跡通りだがいい定跡。云い合いしていて次のカットではダンス、みたいな。ガースンが息子に対して「無事で」という見送り方ができるのは本邦と比較してしまうところで羨ましい。
ピジョンは午前2時半に呼び出し、ダンケルクまで60キロ民間船で進む。進む小型船で河が埋め尽くされるショットに有事の禍々しさがあった。終盤の軍機の火だるまの墜落も上手く撮れていて印象的だった。
ドイツの対英大規模空襲(1940年9月〜41年5月)はザ・ブリッツと呼ばれる。最初と最後は教会で「主は汝の盾となる」と祈られる。戦時国債購入奨励は当時どの映画にも書かれたこと。ワイラーはユダヤ系ドイツ人。
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