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[コメント] リリオム(1934/仏)

フリッツ・ラングが渡米前にフランスで撮った、見事なオールセット映画。第一景は遊園地の回転木馬。その呼び子の名前がリリオムでシャルル・ボワイエが演じている。
ゑぎ

 この遊園地のシーケンスは、短い時間と圧縮された空間の中で、客の取り合いや女客からの誘惑、女主人と女客との言い争い等が描かれ、恐るべき濃い演出が繰り広げられる。この後、女客ジュリー=マドレーヌ・オーズレイとのラブシーンになるのだが、こゝも吃驚するような演出がある。ボワイエは普通にオーズレイの胸、乳房を触るのだ。多分、これはボワイエの即興などではなく、スクリプトに盛り込まれていたか、ラングの演出設計にあったものだろう。なぜなら、この後も、オーズレイにまつわる場面で2カ所、胸を意識させる演出があるからだ。一つは、ボワイエが強盗をはたらくシーンの最中に、クロスカッティングでオーズレイが反射的に胸に手を当てるカットが挿入される部分。もう一つが、かつぎこまれたボワイエの手を、自分の胸に当てるカット。

 後半、天上からやって来る2人の使者の厳格な造型が非凡だが、天に昇る表現は流石にチープ。だが、大俯瞰の地上のカットはどうやって撮ったのだろうと思わせるものだ。また、天上でも地上と同じで官僚的なお役所仕事ばかり、という皮肉も楽しいのだが、映画の上映が始まり、かつて、ボワイエがオーズレイにコーヒーを投げつけ、顔をビンタした場面が映される部分は、これは切ない。私はとあるカフェでタブレットで見ていたのだが、嗚咽がこみ上げて困ってしまった。今となっては、どうしてもDV肯定部分(許されることもある、といったレベルかも知れない)が気になってしまうけれど、この映画中映画の使い方には驚く。スローモーションやストップモーションまで使って、これでもか、と徹底して見せるのだ。ラング演出の徹底性の一端を垣間見る。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)寒山拾得[*]

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