[コメント] スター・トレック(2009/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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実は本作は私にととっても期待度の高い作品だった。“あの”エイブラムズが“あの”スター・トレックを作る。なんかそれだけで嬉しい気がしたし、トレッキーとまでは言わないまでも、それなりにファンでもある私には、やっぱり初期のスター・トレックと言うだけでなんかワクワクさせてくれる。
そしてワクワクしながら映画館に入り、ワクワクしながら映画を観て、そしてワクワクしながら帰宅した…
なんか変な言い方だが、この作品は、本当にあらゆる意味でワクワクさせっぱなしにさせてくれた作品だった。
最初に感じたワクワクは、勿論期待感によるもの。
劇中に感じたワクワクは、「おー。こいつ分かってるじゃん。こうくるか。じゃ次は何が来るんだ?」という、トレッキー的な設定や物語のつながりを感じさせてくれるワクワク感。次々に出てくるキャラの名前や惑星の名前だけでも、次々に記憶が引き出され、「あー、こいつはこういう役だったが、ここではこういう役か」とか考えてしまい、ニヤニヤ笑える。
そして終了後のワクワクは、「さーて、この話は勿論続くんだろうな。次はどんなのが出来るんだろう?」という続きを待つワクワク感。
結果として、ずーっとワクワクさせてくれた作品で、今も尚ワクワク感は終わってない。
だから、素直に本作は良い作品だと言ってしまおう。こんなにずーっとワクワクさせてくれる作品なんて滅多に出会うことが出来ない。
さて、それで本作の内容だが、アクション作品好きにはストレートに楽しめるだろうが、それなりにディープなSFファンにとっては、たいした作品に思えないだろう。実際SF的な意味においては、物語として単純すぎるし、特に主人公のカークの幸運っぷりは予想の上を行き、あまりにもご都合主義な主人公の言動に、「いくら何でもこりゃ無いだろう」と思わされたりもする。後、航行中の宇宙船が戦闘で揺れるなんて事はあり得ないとか。
私もそれは認める。これが普通のSF作品だったら、その部分でクサしていただろう。しかしこれはSFではない。スタートレックなのだ。往年のテレビシリーズを観た人なら分かるだろうが、その、単純なストーリー+幸運すぎる主人公のコンボこそが実はスタートレックの魅力そのものなのだから。だから、本作を観た感想は「良いSF作品を観た」じゃない。「良いスタートレックを観た」というのが正しい感想になる。
だから極めて単純な本作のストーリーはスタートレックとしての強味に他ならない。
だけど、単純でありながら、話も色々捻ってはいる。
最も大きな改変は、これはスター・トレックの始まりの話であると共に、オリジナルシリーズの続編になっていると言う事。結局それは本作がタイムスリップを物語の中軸に据えているからだが、それはあまり重要視されてない。『ドラゴンボール』のセル編よろしく過去と未来は連続した時空ではない。というだけのあっけない説明で全て済ませている。でもその思い切りが良し。その分キャラ描写に深みが出た。
例えばネロが率いるロミュランの宇宙船だが、オープニングカットの禍々しいフォルムと良い、巨大感と言い、重力兵器をも持つ科学力とも言い、あたかも強大な敵のように思わせておいて、実は単なる作業船であったという皮肉。まあ、『戦国自衛隊』で自衛隊の代わりに土木作業員が重機と共にタイムスリップしたような設定になるのだが、そうする意味は物語上、何の意味もない。別段本当に過去の歴史を変えに来た強大な武力を持つ敵であっても話はそのまま通じる。だが敢えて敵を卑小化することで諧謔趣味が溢れているから楽しいのだ。こういう皮肉な設定が溢れていて、特にオリジナルシリーズとは異なる登場のさせ方をさせると、そこも楽しめる。
又、人物についてもオリジナルシリーズとはやや描写が異なることも特徴的だろう。オリジナルシリーズではカークの父は生きていて艦隊司令になっていたし、劇中破壊されてしまったバルカン星を舞台にした話もオリジナルシリーズにはちゃんと重要な物語としてあった。その辺がキャラの性格に影を落としていたりするし、後半に現れる元々のスポックも随分人間的に丸くなってる。特に年老いたスポックがあんなに丸くなってるのは、妙にしんみりさせる部分。きっと死に別れた(『ジェネレーションズ』で分かるが、正確には行方不明となった)カークとの思い出を大切に胸に秘め、そのどれだけカークを信用し、親友となっていったのかを思い起こさせるし、だからこそ、歴史が変わった過去の自分に対し、「カークに付いていくように」とアドヴァイスが出来たと思われる。歴史が変わっているのだから、自分とカークが味わった冒険が繰り返される訳ではない。しかし、このコンビなら、たとえどんな出来事が起こっても、絶対に乗り越えることが出来る。という全幅の信頼感に溢れた言葉になってる。今は反発し合っている二人も、そうしている内にやがては運命のように二人は親友になるはず…何という信頼感だろうか。これを聞いたとき、嬉しい気分になった。
私はトレッキーと呼ばれるほどの熱烈なマニアではないが、先に特撮館でスター・トレックのレビューを作る際、主に海外サイトを漁って情報を集めていったのだが、その際にトレッキー達のムーブメントの歴史や、ファンが本当に求めているのは何か。と言う事も頭に入れることが出来た。その意味で本作は、そう言うムーブメントを通ってきたトレッキーへの優しさに溢れた作品だと言う事が出来るだろう。最後のスポックの言葉は、トレッキーが望んでいた言葉だ。
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