[コメント] プーサン(1953/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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「帝国陸軍解体」なるベストセラー出した(皇居前にこの看板を並べるすごいカットがある)有島一郎、公職追放から「議員に復帰できたのは国民に大和魂が残っているからだ」と新居建てて、傷痍軍人を無視。後半に選挙違反で捕まり、新居は旅館になっている。返す刀でバーで芸術を語る共産党も斬っている。「共産党のくせにタクシーで帰るのか」
三好栄子と越路吹雪の親子はそっくりで絶妙だ。藤原釜足が父。越路と同僚の杉葉子が伊藤の予備校の校長である加東大介を間に挟んで喋くる満員電車の件がナンセンスで面白い。
個性の塊のような伊藤雄之助の没個性の造形は一世一代のもので素晴らしい。銃弾の在庫も尽きた北支戦線で紀元節の祝いして感動した話をして、学生に反動と軽蔑される。「都会では太い神経でないと暮らせないよ」と語る警官の小林桂樹は拳銃持ったノイローゼの者たちをテキパキとさばき続ける。
伊藤と釜足が外食券食堂に入る描写がある。普通の民間食堂と変わらない。大味だと味付けを貶している。伊藤の学生が共産党への入党を誘い、信念を一週間で変えるなと食堂で喧嘩になり、ナレーションは「つまらないことで喧嘩して、まるで今の日本のよう」と揶揄う。おそらく当時の国会の喧嘩など揶揄うのだろう。国民に国会が何も進展しない場所に見えるのはいつものことで、だから小選挙区制に変わっちゃったのだった。
この辺りから時局ネタが雪崩落ちるように見事に続く。件の学生に誘われて散歩気分でデモに行って、それが血のメーデー事件、ドキュメンタリーフィルムを交えて編集され、国民におびただしい数の機動隊の銃が向けられる様が生々しく記録された。頭殴られて留置場、新聞に出て予備校解雇。共産党だから暴力振るったと難癖つけられている(当時共産党は武力路線だった)。無表情で舌出す加東のナイスショットがある。あてにしていた先輩の山形勲も失業中。「仕事があるのはいいことだ」と励まされたりする。水爆を報道しているニュース映画は上映中に煙を吹く。
序盤で動物性タンパクを取れと無茶な診断下していた町医者の木村功は警察予備隊新設にあたり真っ先に隊列に加わる。キャベツ生活の伊藤が頭にキャベツ乗せて踊って見られるギャグが寂しい。小泉博は夜店で宝くじ売り。三好がみつけてくれたミシン会社の仕事は銃の弾つくり。そんな勤めしかないのだ。最後は最初に戻って早朝に列なす軍用トラックにはねられかける。
看護婦の八千草薫はまだ全くの子供。舞台は渋谷の桜ケ丘。助監督に自称右翼の古澤がいるのも絶妙である。再見。昔に高槻で観た。
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