[コメント] ウルトラミラクルラブストーリー(2009/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
この映画には大きく分けて、二種類の人間が登場します。
心(この作品における“脳みそ”)だけで突っ走る人間と、心を失った“からっぽ”の人間。
前者の象徴が、首から下を土に埋められた陽人(松山ケンイチ)で、後者の象徴が、交通事故で首から上を失くして冥界を彷徨う要(ARATA)です。
精神障害を患っている陽人は、元恋人の要のことが忘れられない町子先生(麻生久美子)の気を引くために、農薬を浴びることで自分を正常な状態に戻しますが(ここでは農薬がまるで麻薬のように描かれています)、そのことは彼の身体を蝕み、やがて仮死状態に陥ってしまいます。
そして、いわば“三途の川”とも言える田舎の畦道で要と出逢った陽人は、要からその化身であるスニーカーをもらうことで町子先生の愛を手に入れますが、それは同時に、自らの“死”を意味していました(このあたりのエピソードは、ロバート・ジョンソンの“クロスロード伝説”を思わせます)。
念願かなって町子先生との生活を始めた陽人は、散歩の最中に熊と間違われて射殺されてしまいますが、その心(脳みそ)は、彼の希望通り町子先生の元へと届けられます。そして、熊と間違えて殺された陽人は本物の熊となって甦り、今度は町子先生から心(脳みそ)を受け取るのでした。
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横浜聡子監督は松山ケンイチに対して「陽人は動物みたいなものだと思ってください」と伝えたそうですが、散歩のシーンで陽人がわざわざ起毛のカーディガンを着ていることからも、やはりラストの熊=陽人の化身と考えるべきではないでしょうか。ということは、町子は自分の身を守るために脳みそを投げたのではなく、やはりそれが陽人であることに気づいて、意図的にそれを投げつけたのだと思います(いくら咄嗟のこととはいえ、熊の気を引くために故人の形見でもある脳みそを投げるというのは考えにくいので)。これは死と再生の物語であり、その連鎖がスニーカーや脳みそによって象徴的に描かれている、そんな気がします。
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