コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] こころ(1955/日)

猪俣勝人ってこの程度なのか。キャストや美術は良いのだがホンに意欲が感じられず、文学は映画にならないというヒッチコックの名言の傍証に留まっている。これなら断然和田夏十に書かせるべきだった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







原作に独自の解釈を盛り込むのに長けた彼女なら、この名作をどう料理しただろう。「明治の精神」とは何か、については、批評家の数だけ解釈がある処だ。父の危篤を放り出して駆けつける「私」の行動の善悪については、先生の遺書で終わる原作は何も語っていないゆえ、余白は広い。

本作でも新聞記事で確認できるが、乃木将軍の殉死は妻と一緒で、この妻の名前は静子である。先生の妻が静であり、先生が「殉死」に妻を巻き込まなかったのは、漱石の乃木将軍への批評と云われる。だから原作は「明治の精神」を全肯定していない。大喪の礼を描いて事足れりという本作の解釈は違和感がある(なお、林立する日の丸が半旗でないのはなぜだか判らなかった)。

この辺り、幾らでも斬り込む余地があるはずだ。ただ原作のダイジェストにお座なりの収束を付け加えただけの本作は無難なだけで何の冒険もなく、退屈至極。お好みの軽妙なユーモアが使いようのない題材のため市川作品として不自由この上なく、キャメラワークだけが浮き上がっている。本作の美点はキャスト。個人的には三橋達也鶴丸睦彦新珠三千代森雅之の順に心に残った。原作に忠実な美術も優秀、何もかももったいない感じ。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。