自分の父が先生として自分の学校にいるなどという特殊な環境に、「そんなのは原辰徳くらいじゃねぇの？」と叫ばれる野球ファンもおられるだろうが、何を隠そう自分もそんな境遇にいたひとりであることをまず告白しておきたい。しかも私は、そんな父が突然治ることのない病に倒れ帰らぬ人となったという経験をも有している。そのようなこともあり、この映画は、私にとっては何ともいたたまれないというか、特別な感情を抱いてしまった映画であったということも、あわせて告白しておきたいと思う。

特に奥田瑛二演じる父親を、念願の川面に連れて行き、共に釣りにいそしむまでの一連の流れは、分かっていても引き込まれる濃度の高さがあったと同時に、自分にとっての父と行きたかった場所は何処だったのだろうとついつい考えてしまったし、高橋惠子演じる妻が、「こんなことしてていいの」とか何とか言いながらも夫と添い寝するシーンなども、恥ずかしながら目頭が熱くなる思いを抱いてしまった。

恋人役の伊藤歩もいつも以上に魅力的な女性像を作り上げていたし、主役のＡＫＩＲＡも、自分はそんなに悪い演技だとは思わなかった。むしろあんな彼だったからこそ、純粋な父への思いをいうものを表現できていたのではないかと思う。加えていうと、町の象徴的に何度も登場する看板類や、バス運転手と母とのさりげない交流のシーンなども、ともすれば平坦になりがちな画面作りの中に、印象的な彩りを添えていたように思う。

ただ、息子の父への思いが強すぎて、自分自身が癌と宣告されたことを恋人に伝えるという肝心かなめのシーンが添え物的になってしまった感は否めず、その辺りは非常に残念。しかし、そのようなマイナス面を差し引いても、『ちゃんと伝える』は、自分にはちゃんと伝わった映画であった。

園子温に、何かと過激な描写で世間を刺激する異色の作家という印象を印象をもっている人も多いことだとは思うが、あのリンチの『ストレイト・ストーリー』と同様に、この作品が純粋な佳作として評価されるにこしたことはない。少なくとも私にとってはこの映画はそんな映画だ。