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[コメント] あなたと私の合い言葉 さようなら、今日は(1959/日)

前半★5。パロディのまま最後まで通してほしかった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







小津のパロディが羽目を外している前半が面白く、なぜか音楽だけトランペットが咽び泣いたりしてこれも冗談のように聞こえるが、後半になるとその咽び泣きのトーンでいつの間にか作品が纏められてしまう。しかしそんな話だったのか。

川口浩までやる棒読み科白という畳みかけ、京マチ子の告白に対する異様に長い若尾文子の顔アップ、菅原謙二と女性社員とのやり取りなど、前半は市川崑らしい妙な粘り気のある軽妙さが独特の味を出していてとてもいい。一方、野添ひとみはゾンザイな扱いでもったいなく、彼女の歯痛などは普通もっと膨らませるだろう。男三人の居酒屋での遭遇という定番ギャグもあんまり冴えていない、定番なら船越英二も結婚させ、若尾だけひとり船に乗る、とする処だろうと思う。

佐分利信は若尾を出かけさせるのかさせないのか、次々と裏腹なことを云うギャグはモンティ・パイソン級に面白いが、同じギャグの繰り返される次の件では、佐分利は若尾に見合いにいかせたくないのだなと腑に落ちることになる。この辺りから話は、おもろうてやがて哀しきの構図に入ってしまう。クライマックスの親子の独立を謳う茶の間の会話は彫りが深くて剛腕という感じがするし、いわゆる小津の世界に対する批評になっているのが興味深いが、複雑な余韻を佐分利のやけに簡単に決まる再就職というご都合主義が邪魔している。

加えて前半のコメディ・タッチとの繋がりがもうひとつ不鮮明、水と油ではないのか。リアリズムが出てくると例えば京マチ子は結局どういう人物だったのか判然としなくなってしまった。比べれば作品の一貫性を失わない小津のギャグ(例えば同年の『浮草』における三井弘次)は優秀だとなってしまうし、ルビッチやキャプラ、ホークスらなら過激な造形ももっと巧みに収めるだろう。ラストの船上での若尾のアップは、この映画って何だったんでしょうと思案しているように見えてしまった。

折角だからコメディで押し通し、佐分利にメガトン級のギャグをかまさせるぐらいの収束にしてほしかった。チョコの買い過ぎで野添と一緒に歯痛になるとか(駄目か)。

(評価:★3)

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