[コメント] ファイナル・デッドサーキット 3D(2009/米)
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突起物が、観客の視界に刺さるようにして突き出し、人体を貫く惨死シーンや、爆発シーンで機械の部品やら破片やらがこちら側に飛んできたり、レーシングカーの太いタイヤが飛んできたり、人体がフェンスにめり込んだり、蛇がクネクネと身を捩りながら迫ってきたり、火の点いた焦げた紙切れだかがフワフワと宙を舞ったり、観客を画面内の惨事に巻き込んでやろうと3Dを楽しんで使っている様子は微笑ましいし、終盤で3D映画の上映されている映画館を舞台にしている入れ子構造もまた、観客を映画の世界へ取り込む仕掛けというわけだろう。
そうした、映画館に観に来ている観客へのサービス精神は賞賛に値するが、殺しのネタの方となると、「似たようなのは過去作で観たよ」と言いたくなるマンネリ感が否めない。液体の入った容器が倒れて中身が零れたり、釘が飛んだり、突起物が体に突き刺さったり。3Dで上映されたという付加価値を除くと、アイデアとして新味の無いシーンが多い。黒人警備員ジョージ(ミケルティ・ウィリアムソン)が車に激突されて死ぬシーンなど、意味ありげな蛇のヴィジョンの示していたのが単に救急車のマークに描かれた蛇だったという短絡さも併せて、ジョージが要らなくなったから手っ取り早く死なせようとしただけのような手抜き感が漂う。ハント(ニック・ザーノ)がプールの小さな排水口に吸い込まれて死ぬアイデアもやや強引。明るいプール場にグロい血や肉片が噴射されるインパクトは強いが、ちょっと笑ってしまう。
一方、最も秀逸だったのは、レースの爆音除けとして子供らにタンポンを耳に入れさせていたサマンサ(クリスタ・アレン)の死。まず、彼女が美容院に閉店時間ギリギリで入り、「これから女同士で出かけるの」と店員を説き伏せて散髪してもらう流れによって、美容院の空間内に人間関係が構築されるところが良い。この説得された店員の、太った体型とパンク風ヘアメイクが相俟ってのどこか残酷な印象や、その反面、それなりに人の良い様子。サマンサの髪を切る店員の、中島美嘉風の容姿。二人の店員それぞれのキャラが立っているので、思わせぶりな椅子の落下やファンの落下も、彼女らのリアクションによって活きてくる。鋏や爪切りといった卑近な小道具も恐怖感を煽る。尤も、倒れた容器から液体が零れるというマンネリなアイデアが登場するのもこのシーンなのだが。無事に美容院を出たと思った途端、芝刈り機が跳ねさせた石が顔面に飛んでくる死も、美容院に入る前の遣り取りで伏線が張られていたので、ジョージの死には無い納得感がある。
前作と比べると、前作では死の運命に直面する面々が皆、学生生活を共有する者同士という背景があったお陰で、一人一人死んでいく過程にそれなりのインパクトが生じ得たのだが、今回は主人公を含む友人・恋人関係の四人の間にさえこれといった生活背景が感じられない。前作がその点で特に秀逸だったわけでもないのだが、そのレベルにさえ本作は達していない。
細かい箇所での演出のいい加減さも気になる。ニック(ボビー・カンポ)が、新聞に零れたコーヒーによって、行動を起こし死を回避させることが出来た者たちからは死の運命が去ると確信するシーンは、まずこの確信そのものが唐突に見える。また、覚悟を決めたジョージが首吊り自殺を試みたところへニックと恋人ローリ(シャンテル・ヴァンサンテン)が訪れて運命の回避を告げることでジョージは掌を反したように明るく振舞うが、自分の飲酒運転で死なせた妻子の許へ行くと達観の表情を見せていた割には軽い変心。彼の開けたシャンパンのコルク栓が観客の方へ高々と飛んでくるカットの飛び出す3D的遊戯感も含めて軽い。
その後、映画館でのニックの幻覚シーンでローリがエスカレーターに巻き込まれる際、彼女が足を挟まれた途端に口から血反吐を吐いているのは気が早すぎる。このシーン以前に、エスカレーターでローリの靴紐が引っかかって焦るシーンがあったのが伏線になっているわけだが、このたかが靴紐のシーンの方が恐怖感は強い。友人ジャネット(ヘイリー・ウェブ)を含むニックとローリの三人が上映中の映画館で言い合いをするシーンは、状況が状況なだけに仕方ないにしても、映画館で喋るという行為の冒涜性によって「こいつら死んで当然」のように思えてしまうのが難。
ジャネットが洗車マシーンで死にかけたところにローリらが救出に来るシーンでは、それなりに意識的な演出家なら、ここで登場したローリらの車の存在感をもっと巧く演出した筈。ニックが独り奮闘してスプリンクラーを作動させようと、先端に火の点いた木材を必死で持ち上げるシーンも、寸でのところで成功した瞬間の、天井からの水はもっと印象的に撮って然るべきだろう。死の驚きを演出することはこなせても、救いのカタルシスを描くのはまるで不得手なのが見てとれる。
生き物のように跳ねながら釘を飛ばすネイルガンにニックが襲われるシーンは、実体無き「死の運命」が一瞬キャラクター化して現出したかのようで面白い。
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