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[コメント] ウルフマン(2010/米)

やっぱりジョー・ジョンストンはいい。シーンの不足のため物語の咀嚼が万全でない憾みは残るものの、現代のテクノロジーを駆使した古典新訳としてこれは立派。ゴシック世界の丹念な構築ぶりは『スリーピー・ホロウ』組(美術リック・ヘインリクス、音楽ダニー・エルフマン)の仕事と知って腑に落ちる。
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巻頭“UNIVERSAL”の文字が画面に現れるだけでホラーのムードが二割上昇するが、何よりこれは見事なアクション映画だ。これほど質の高いアクション・シーンを持つ映画には年に二〇作とお目にかかれない。まず、後に正体がアンソニー・ホプキンスであったことが明かされるところの第一の狼男がジプシー・キャンプを襲撃するシーン。物語の前半部であるここで狼男の姿をはっきりと見せないというのは定石中の定石の演出だが、それが「もったいぶって狼男にカメラを向けない」という以上に「狼男の動きが速すぎてカメラで捉えられない」というのが面白い。人々は逃げまどい、狼男は彼らを容赦なく次々と血祭りにあげる。そしてベニチオ・デル・トロは狼男を仕留めようとのそのそ歩き回りながら銃を準備する。このあたりのアングル選択やロング/アップといったカット構成の呼吸の見事なこと、わけても引きの画の強さは特筆に値する。また、狼男と化したデル・トロが癲狂院を脱走して市街で大殺戮を繰り広げるシーンも良質のアクション演出に貫かれて、どす黒いカタルシスさえ覚える。上記のふたつのシーンに共通するものとして、パニックに陥った集団の動かし方が優れているという点を挙げることもできるだろう。

終盤におけるデル・トロとホプキンスの一騎打ちまでくるとさすがにアメコミ映画の気配が勝ちすぎ、諸手を挙げて喜ぶことまではできないが、「燃え上がる古城」という舞台は美術班と特撮班が手を組んだ仕事として最もみるべきところだろう。また屋内・屋外を問わず撮影(とりわけライティング)は総じてすばらしい。暗い城内に窓から差し込んでくる光線や、森に立ち込める霧靄。癲狂院シーンでデル・トロが見るフラッシュバックのイメージ連鎖が切迫したリズムを伴って強烈であったことも特に記しておきたい。

(評価:★4)

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