[コメント] インセプション(2010/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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諸手を挙げて「素晴らしい」とまでは言えないまでも、相当に満足度は高い作品だった。ノーランらしさって奴を色々拡大して見せられたし、やっぱり夢の映画って良いな。と思えて、自分のツボって奴を再認識できただけでもよし。
ただ、いくつか引っかかるところもあるので、徒然にそれらを書いてみようか?
一つには本作はすっきりし過ぎてるって所だろうか。夢なんだからもっと不条理な世界が展開するのかと思ったら、思ってる以上に物語に筋が通りすぎていて、拍子抜けしてしまった気分。むしろあっさりし過ぎ?不条理なはずの夢を題材にしていながら徹頭徹尾条理で押しきってしまった。
夢に階層を作り、深度を増していって、それぞれで物語を展開させるのは面白いが、それぞれの世界が全部理解可能になっているので、夢という感じじゃなくなってる。夢を不条理にするのはコーディネーターの役割であり、そのプログラムにすべて負っているため、たとえばモンスターが出現するとか、何の脈絡もなしに地面が陥没して落下するとか、ルートを通らずして敵が突然目の前に現れるとかいうことがなく、人間の深層意識があたかもすべてコントロール可能なように描かれているし、夢の深度を増してもきっちりした世界観の中から出ていない。夢の階層が単なる舞台替え以上の機能を果たしてない感じがあり。
どこからどこまでが夢だか分からなくなり、何度目覚めても夢から逃れられない。的な描写もあるのはあるが、それらもやはりコーディネーターの作り出したプログラムとされているし、不条理と思えた部分さえきっちりとプログラム内。これでは夢を主題にした意味があんまりない。
もちろんこの不満は的外れだというのは分かってる。その部分まできっちりしているからこそ本作の物語はきちんと展開できるのだし、その大前提を離れると作品自体が本気で訳分からなくなってしまう。むしろこれは夢を定義づけることで初めて可能となった物語である。
それは頭では理解できるのだが、好み。と言う観点から見てしまうとかなりずれる。
もう一つ。本作は雰囲気こそ壮大だが、実質的にはとても狭い物語だった。と言うことだろうか。
それこそ純粋に一人の人間の夢の中に入り、そこでプログラムを書き換えるだけで話が終わってしまう。主人公のやってることは雇われ仕事の一つに過ぎず、スケール感がとても小さくなってしまった。任務失敗で夢と現実の区別が付かなくなってしまうとか、現実世界を夢が浸食するとか、そういった意味でのスケール感がなく(言葉ではいくつかあったけど)、主人公は淡々と任務をこなし、いくつかの危険を冒して無事任務を完了する。それだけの作品になってしまった感じ。
緻密なプロットを構築し、見たことのない物語を構築するには、物語の設定を出来る限り小さくしないことにはまとまりきらないのだから。実際これで失敗した作品なんてのは、それこそ毎年イヤと言うほど作られている。その轍を踏まないと言うだけで充分本作は立派だ。
最後に主人公の立ち位置があまりに限定されていることだろう。ほぼ全編を通して自分のことを喋っているにも関わらず、最後までその人となりが理解出来ない。分かっていることは、かつて妻と長時間夢の中にいたこと、それが原因で妻を自殺に追い込んでしまったこと。二人の子供がいるが、帰国できないために子供と会うことが出来ない。これしか分かってないし、ミッションを遂行するモチベーションも「子供たちに会いたい」と言う意外がない。あれだけ出ずっぱりなくせに背景が希薄すぎるのも気になるところ。その部分だけは少々描写不足だったんじゃないかな?
以上三つが私が感じた違和感なのだが、どちらもちゃんと説明付けられるし、その程度で本作が失敗したとも言えない。単に私が「こうあってほしい」と思っていたことがすり抜けてしまったから言うわがままに過ぎない。
とは言え、作品としては十二分に楽しかった。夢に入り込むこと自体よりも、この作戦のためだけにプロフェッショナルを集め、それぞれが自分のなすべき事をしっかり行っているという、本物のプロがなしてる作戦模様の方が楽しいし、夢という曖昧なものを相手にしているのに、やっていることは全部理にかなうことと言うのも一種のギャップで、そこが面白い。考え得る事態をあらかじめ想定して、様々な防衛ラインを築き、それでも予想外のことが起こる。そんな夢の探検にはまってしまう登場人物たち。とても愛着をもてるキャラ達だ。願うべきは、ノーラン監督によるシリーズ化だろうな。少なくとも私は確実に全部劇場で観るし、必要とあらばソフトも全部買うぞ。
あとくだらないことだが、思いついたことを一つ。ノーラン監督はマイケル・ケインが殊の他お気に入りらしく、本作で4本の作品に登場させているが、やっぱりイギリスの監督って、ケインを登場させるのがステータスって事なんだろうか?ファンとしては、今もなお多くの監督に愛されていると思うだけでなんか嬉しい。
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