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[コメント] メーヌ・オセアン(1985/仏)

面白い!パリのモンパルナス駅。切符売り場からホームへ歩く黒人の女性−デジャニラ。彼女の後ろ姿を、発車しかけている列車に飛び乗るところまで、長回しの移動ショットで追う。この列車がタイトルのメーヌ・オセアン号だ。
ゑぎ

 実はタイトルから、ほとんど全編が、このナント行きの列車を舞台とするのかと想像していたのだが、列車の場面は序盤だけで、中盤からは、主に、ユー島というナントに近い沖合いにある島が舞台となる。

 主な登場人物は冒頭のデジャニラ−ロザ・マリア・ゴメスの他に5人いて、まず、序盤の列車の中で、彼女が出会う検札係り(フランス国鉄職員)のリュシアン(リュリュ)−ルイス・レゴと、その上司のル・ガレック−ベルナール・メネズ。デジャネラはブラジル人で、仏語がよく分からないため、通訳を申し出る女弁護士のミミ−リディア・フェルド。あと、中盤、弁護士ミミが裁判で弁護する漁師のプチガ−イヴ・アフォンソ。この4人がプロットを引っ張る(というか、蛇行させながら進める)。ま、このあたりまでは、まだ予想の範囲でプロットが進むのだが、終盤になって、NYからデジャニラを追ってきた興行師のペドロ・マコーラ−ペドロ・アルメンダリス・Jrが登場し、プロットを引っ掻き回してしまうのだ。

 特筆すべき場面をあげよう。序盤の列車内のシーンも言葉の通じない面白さが横溢するが、中盤の裁判シーンでの、被告プチガの粗野なふるまいと、弁護士ミミの意味不明な抗弁が可笑しい。高尚なコミュニケーション論を長々とぶったミミが、さて前置きが長くなりましたが、と云った途端に裁判長が切れる。ちょっと戯画化され過ぎたアイロニーかも知れないが、私は笑ってしまった。

 そして本作は何と云っても、ユー島で主要人物が集まってからが傑作だ。中でも一番良いシーンは、興行師がデジャニラに歌を唄わそうとして、市民会館でピアノを借り、どんちゃん騒ぎになるまでの一連のシーケンスだろう。まずは、このホールに到着した時点で、島の若者たちが祭りの練習のため、唄い踊っており、この場面の濃密な描写が凄い。リュリュがエレキギターを弾き、プロのピアニストを連れて来て、というお膳立てがあるのに、結局、デジャニラは唄わない、自分はダンサーだと云い張る。しかし、次のシーンで、いきなり、皆でサンバを演奏している場面となり、デジャネラは露出の多い本番衣装(リオのカーニバルみたいな)で踊っているのだ。こゝで主に唄うのは、検札係りの上司、ル・ガレック−メネズという全く予測不能な展開。これを、抒情的なディゾルブ繋ぎでカッティングする。この一種のジャムセッションの祝祭性。精神的な軋轢や言葉の壁を超えたコミュニケーションの快さがよく分かる場面になっている。

 さらに翌日、興行師が、ル・ガレック−メネズに歌手デビューを勧める、現代のシュヴァリエになれる、と持ち上げる、という話の運びで、終盤は、このル・ガレックが主人公のようになってしまうのも、人を食った作劇なのだ。こんな、行きあたりばったりのようなプロット展開だが、しかし、とりあえず、ル・ガレックが、ナントからパリ行きの列車に間に合うのか、ということも焦点となり、本作のタイトルの意味がまた出て来る。これも良い点だろう。海辺、砂州、砂浜を行く、ル・ガレックのロングショットを繋ぐ、終盤の画面の見応えも特記すべきと思う。こゝでも流れるサンバの劇伴がいい。

(評価:★4)

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