[コメント] 東京の休日(1958/日)
山口淑子の芸能生活20周年記念であり引退記念作品。 当時の東宝オールスターが勢揃いしています。キャストを見るだけでもクラクラしそうです。オープニングロールの「特別出演」の長いこと長いこと。 個人的には八千草薫さんがかわいいなぁ…。
冒頭の日本へ向かう飛行機の中から、日本は戦後復興した素晴らしい国だという一団と、日本は戦争に負けた駄目な国だという一団との対立(というほど深刻なものではありませんが)が描かれていて、ツアー客役の小杉義男がいい味を出してます。 丸の内、皇居など「東京の休日」らしいバスツアーが続くのですが、バスガイドが「本日は日本的な場所にご案内します」と案内するのが鎌倉です。 対立していたツアー客たちは鎌倉ではじめて共通の懐かしき「日本」に触れたように打ち解け、バスガイドが「アメリカ的」な音楽にからだを動かすのを苦々しい眼で見るというカットでシーンが変わります。
日本で生まれアメリカでファッションデザイナーとして成功した主人公(山口淑子)が日本に一時帰国してファッションショーを開き、再びアメリカに帰っていく。 一見奥行きのないストーリーですが、山口淑子へのオマージュに徹した別れの花束のような映画で、唐突に登場する中華料理店の名が「李香蘭」で、店主の中国人が森繁久彌というのも山口淑子を明るく見送ろうという気持ちがあらわれていて微笑ましいシーンです。
この映画には回想シーンがありません。 上映時間などの関係で省いた可能性もありますが、現代の映画やドラマなら回想シーンで見せるような場面をバッサリと切っています。 主人公の過去は台詞の断片で想像するしかないのですが、物語の上で重要な幼なじみとの思い出や記憶はミステリアスなまでに説明がありません。 三船敏郎の登場は物語のクライマックスといっても良いシーンで、私はてっきりカメラが主人公に近寄り、その表情を見せるだろうと思いました。しかしカメラはじれったいほど離れたまま、三船敏郎はよもぎ団子を配っています。このあと唯一アップで写されたのは紙幣の入ったバッグでした。
主人公の才能と名声を利用して儲けようと右往左往する周囲の人たち。 そんな思惑を知りながらも期待に応えようとする主人公。 山口淑子の女優人生のある側面を表現していると見るのは穿った見方でしょうか。 この引退記念映画の製作は原節子の呼びかけだったらしいのですが、ファッションショーの場面で握手を交わす山口淑子と原節子の演技に見えないリアリティーは実際に演技ではなかったのかもしれません。
ラストシーンで主人公は何も語らずアメリカ行きの飛行機の席に座っています。 尾道から東京行きの列車に乗った原節子にも似た表情で。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (2 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。