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[コメント] ゲゲゲの女房(2010/日)

戦争負傷者の茂も、貧乏に一切涙をみせない布枝も、餓死する漫画家なども、いわば妖怪だろう。布江はボンボン時計を巻き続け、別の時間が流れている。考証無視の21世紀の街並みは対照のため意図的に選択されたに違いない。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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という主題なのだろう。アポロの時代に妖怪など見向きもされなかった、と。その後は高度成長の終焉とともに科学信奉は揺らぎ、新興宗教ブームや妖怪ブームがあり、このように水木しげるの朝ドラや映画まで撮られた訳で、60年代当時の科学信奉のほうが想像し難くなっている。ともすると勝ち組の雌伏何年、勝利宣言のような主題になるのであり、別に妖怪を尊重もしない私などにとっては如何わしい感じもする、というのがひとつある。

ともあれ、この主題の切り口を徹底すればとても魅力的だっただろうが、上手くいっていないと思う。原作者への気兼ねが見えて描写を酷薄なところまで踏み込ませておらず、身近に妖怪がいるというところで立ち止まってしまい、自らもまた妖怪だとは語り尽くせていない。また、意欲的な撮影の一方、妖怪や戦争をなぜあのようにアングラ調に薄っぺらく撮ったのか理解に苦しむ。それでも、高層マンションを背景に剥き出しのバナナを土産に渡す件や、橋の上で亭主を妖怪と間違える件などは、主題を画面に定着させて優れており、その静かなタッチが記憶に残る。

時代遅れの仕事と、変わった夫婦の物語と単純に捉えればとても好印象、しかしすると意味ありげなアングラ妖怪たちはいかにも邪魔、やるなら徹底的にやっていただかないといけない。

(評価:★3)

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