[コメント] 信さん 炭坑町のセレナーデ(2010/日)
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たとえば、朝鮮人少年が友人である主人公と別れて大阪に移住することが決まり、しかしその日駅に向かうのに遅れるシークェンスがある。ここで『キューポラのある町』のラストシーン近くを思い起こす人は結構多いのではないか。朝鮮政府への日本人の認識のしかたは「時代の相違」ということで追及し過ぎるのはナンセンスだが、自分としてはこの別れどころか、少年をめぐる一家を含めての描き方の軽さには疑問が残った。
『キューポラ』に比べてこの軽さは何だ。もっとエモーショナルな描き方もあろうものではないか。もちろん少年が最後に禁を破って、日本の悪童たちをコテンパンにするくだりはある。しかし主人公がそれを知ったのは事後のことであり、逆転のカタルシスは皆無である。彼は「なぜこの物語に登場したか」を疑わせる存在だ。
そしてタイトルでもある「信さん」の存在。実際彼の活躍シーンはあっても、生きて行動するシーンは驚異的に少ない。主人公とのつながりも、ものの見事に端折られている。彼という存在は主人公にとって何だったのか?判らない。
敢えていえば、この映画の主人公は少年たちでも、まして小雪でもなく、昭和半ばの雰囲気そのものでしかなかったのではないか?だとしたらノスタルジーの押し付けは願い下げだ。『三丁目の夕日』は新鮮だったこそ好感をもって観られたが、あれから何年経ったとスタッフは思っているのか。もはや昭和は歴史上の時代だ。およそ歴史映画・時代映画で役に血の通わない映画ほどつまらないものはない。それを認識してほしくなる、かなり苛立たしい作品だった。
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