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[コメント] 完全なる報復(2009/米)

前提条件の必要十分でありかつごく簡潔な説明の巧みさは脱帽。ただ、オチのつけ方には苦慮した印象がある。
Master

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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被害者感情と司法の対立というテーマとして考えれば、日本でも森田芳光監督の『39 刑法第三十九条』であったり、益子昌一監督の『さまよう刃』という作品がある。しかしながらこれらは法の条文そのもの、または法律自体をテーマにしているので、基本的に妥当性がないにもかかわらず被害者感情が考慮されない司法取引をテーマにしている本作とは若干の違いがある。それにより、若干の「分かりにくさ」が感じられる危惧がある。

それでも、本作が上手いのはアバンタイトルから司法取引により主犯が禁固5年程度にまで減刑される事を示すシーンをコンパクトに提示する(検事と犯人の握手まで出すという徹底振り!)事により、この制度に内在する「問題点」を明確にイメージできるようにしているところである。この一連のシーンによりクライド(ジェラルド・バトラー)が抱く「報復感情」が観客にも端的に伝わると思う。この辺りの演出の巧みさは舌を巻く。こういった巧みさは全編を通して徹底しているので、最後まで緊張感が途切れることはない。

ただ、本作最大のマイナスポイントはサラ(レスリー・ビブ)を殺してしまうことだろう。彼女は最後の市役所襲撃に際して「探偵役」を振るのに最適な存在だったはずである。ニック(ジェイミー・フォックス)も安全保障会議に参加せざるを得なくなるが階下にナパームが置かれていることを知り、彼女に指示をしてクライドの独房に運ばせれば「大団円」とは言わぬまでも、ニックもクライドのターゲットになった事にできる。「消す」事による悲劇性との比較ではあるが、こちらでも良かったのではないかと思う。

また細かい話をすれば、そもそものつまずきであるはずの「違法証拠収集」についてニックの台詞だけで終えてしまっている事も問題である。しかもその台詞は警察サイドへの「責任転嫁」とも取れる台詞なので、であればクライドのターゲットに警察関係者が入っていないのはなぜかという説明が必要になる。それが本作には一切ない。もちろん、ターゲットが広範囲にわたってしまって収拾がつかなくなるためであろうとは思うのだが、10年という期間・クライドの情報収集能力を見る限りは「違法証拠収集という結論自体がニックの嘘(判断ミス)」でも構わないので何らかのフォローをしてしかるべきであると思う。

殺害方法の荒唐無稽さに関しては、まぁ、「遠隔殺人の名人」という設定で「免罪符」といったところなので、とやかく言うまい。「携帯にも細工できるし、テトロドトキシン使っても「全身麻痺」程度で抑えられるの!」といわれれば「はぁ、そうっすか」と言うしかないだろう。

という事で、概ね楽しめたので個人的には十分だった。

(2011.2.20 新宿武蔵野館)

(評価:★4)

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