[コメント] その街のこども 劇場版(2010/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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「あさイチ」でのセックス特集。「セカンドバージン」の濡れシーンなど。最近のNHKのアバンギャルドな番組作りには敬意を払わずにはいられないが、本作もそういった前衛的NHKの作品作りの系譜に息づく佳作と言えるだろう。
本作は年若い男女2人の非常にパーソナルな視点から、「阪神淡路大震災」を再解釈しようとする試みであり、同事件は悲惨な事件ではあるが、その質量、そこから受ける印象あるいはトラウマについては、個人によって大きく異なるし、また異なってもいいのだ、という視点・着眼点の新しさによって、テーマとしては非常に有意義な映画であると思う。
渡辺あやの脚本も相変わらず素晴らしいと思う。『ジョゼと虎と魚たち』『メゾン・ド・ヒミコ』でみせた、一見同じ孤独を抱える男女が違うベクトルを持つが故に衝突する様を、軽妙な会話のやりとりで描き出している。重いテーマ・変化に乏しい画作りを補って余りある出来栄え。居酒屋で森山未來と佐藤江梨子が主張の違いから徐々に気まずくなっていく過程、「何か間違ってんな私」と独りごちる佐藤江梨子、スリーサイズか携帯番号の聞きだしを後輩に強要する津田寛治など、前半から中盤にかけて渡辺あやテイストの台詞がところどころに散見し、適時ガス抜きをしてくれるからこそ、ラストの息の詰まるような感情の高まりに僕ら観客は最後までついていけるのだ。
ラストシーン。二人のセンチメンタルに陥らない毅然とした態度とそれぞれの決断がとても清々しい。甘すぎないのがいい。ラストシーンの東遊園地での追悼式の様子は、本作TV版の放送当日の早朝に撮影したんだとか。リスクに立ち向かう製作陣の気骨が見事にラストシーンに宿っている。
間違いなく、出色な出来の日本映画。
ただ、残念な点も3点挙げておく。
一、恵比寿の東京都写真美術館で観たが、ほんとガラガラ。自分を入れて10人くらい?最近シネコンばかりで映画をみていたので、こういったミニシアター(東京都写真美術館は正確にはミニシアターではないが)の現状をみると、ガーデンシネマやシネセゾンの閉館も不可避的な事態であったのだと思い至る。
二、ここまで褒めておいてなんだが、個人的にはあまり同調できない作品だった。僕は登場人物の佐藤江梨子と同じ年齢だが、彼女がはっきりとしたトラウマの正体を把握し、それに立ち向かおうとしているのに比べて、僕の日常に潜む不安や恐怖はもっと漠然としていて掴みどころがない。自分がいったい何に立ち向かえばいいのかも判らないまま、それでも前に進まなくてはならないと感じ、焦っている。20代後半の世代には少なからずそういった空気が支配していると僕は思っている。そういった意味では、非常に不謹慎を承知ではあるが、立ち向かうべき敵の正体が判っている主人公たちの方が、その攻略法の検討余地があるからこそ、いくぶん救いもあるように思えた。
三、カメラワーク、これでいいの?居酒屋での撮影中、のれんにカメラがぶつかってのれんが揺れてましたよね?ドキュメンタリータッチと言えばそれまでかもしれませんが、正直やめてほしい。あと、通行人がジロジロとキャストを見過ぎ。人払いしなさい。
以上
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