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[コメント] 伯爵夫人(1967/英)

マーロン・ブランドの仏頂面とコメディとのギャップの面白さや、カラーを活かしたギャグなど意欲的な作品ではあるが、全体の二割くらいしか笑えない。チャップリン御大のユーモアは、モノクロの非現実感と幻想性に支えられていた面もあったのでは?
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







海の青さや、色とりどりの衣装、セットは目に楽しいが、映画の大部分を占める船室がやや殺風景。ナターシャ(ソフィア・ローレン)の身を隠す為に鍵が閉められたドアが、頻繁にノックされたり合い鍵等で開かれたりするギャグも、可笑しさよりは苛立たしさを感じさせられる。このギャグを活かす為なのだろうけど、会話を交わす人物たちのすぐ後ろにこのドアが、ほぼ常に映り込んでいるのが目障りに思えてしまう。

ナターシャは、最初に登場した時には他の貴族婦人たち同様の、無表情な澄ました様子で、動くマネキン人形のように無機質だが、オグデン(マーロン・ブランド)の船室のクローゼットから現れた途端に活き活きとし始める。邪魔っけな闖入者に過ぎなかった彼女が、徐々に愛らしい同居人に変わっていき、最後には、オグデンが地位や名誉よりも大切に思える存在になる、というその過程を、時間をかけて描いている点は悪くない。繰り返されるギャグも、それ自体は大して面白くもないのだが、オグデンとナターシャが数々の危機を乗り越える共同作業としては、作劇的な効果を上げている。

終盤、オグデンと別れたナターシャが、ホテルの窓辺に独り座って海を見つめるショットは、この映画のベスト・ショット。海上に客船が浮かんでいて、夜の闇に、船の窓の灯りがポツポツと並んで見える。ホテルの窓ガラスには、船に重なるようにして、ナターシャの後ろで踊る人々の姿が映っている。このショットを見れば、客船でのダンス・パーティで、ようやく船室から解放(?)されたナターシャがオグデンと踊っていた場面が想起されるだろう。回想シーンという形を取らずに、回想的な場面が成立している。

ラストは、この独りで海を見つめ続けるナターシャの許にオグデンが戻って来、手を取り合って踊る二人が人影に紛れて消えていくショットで閉じられる訳だが、これは冒頭で描かれていた、金を払わせて伯爵夫人と踊らせる商売を、意味を変えて反復している。「伯爵夫人と踊る」という点では同じ行為だが、オグデンとナターシャは互いに惹かれ合って、金も身分も関係ない男女として踊っているのだ。

(評価:★2)

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