[コメント] 婚前特急(2011/日)
吉高由里子が乗り回すスクータのような軽快さと速度感がこの映画の身上だ。吉高はさすがのポテンシャルを見せ、また彼女ありきで進行した企画だとも推測されるが、この映画の成功を決定づけているのは彼女以上に浜野謙太の存在だろう。演技力だけでは務め上げることのできない難役にぴったりハマっている。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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何よりまず笑える芝居がたくさんあるというのがいい。近年の日本映画でこんなに声を上げて笑ったことはなかったかもしれない。百人一首を詠み合うロングテイク・シーンだとか。こういう「場の空気」による笑いを目指す人も少なくないのだけど、滅多なことでは上手く行かないようだ。吉高・浜野・加瀬亮・石橋杏奈各々のテンションの上下をきっちり見せるべく的確な場所にカメラを据え、後は役者の能力を信じる。ただし、そもそも「百人一首」という絶妙の着想がなければ、やはりここまで笑えるシーンには仕上がらなかっただろう。
そのシーンの終盤、怒りを抑えきれなくなった吉高が部屋を飛び出す。浜野もそれを追うが、ここから物語はやはり吉高のスクータのように暴走を始める、ように見える。浜野の部屋での掴み合いの大喧嘩、そして「壁」をぶっ壊してから急転直下のハッピー・エンディングに至っては一見作劇の放棄のようにすら思える。しかしそれは早計だろう。というのは、演出の水準では既に「壁の破壊」を要請する手続きが踏まれていたからだ。すなわち、スクータ暴走と掴み合い大喧嘩に挟まれる留置場のシーン、ここで吉高と浜野を隔てる「壁」という主題が導入されていること。前田弘二は実にしたたかに映画を展開してみせている。
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