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[コメント] 監督失格(2011/日)

フラれる女をキャメラ片手に追いかける男、とは原一男『極私的エロス・恋歌1974』と同じ設定だ。武田美由紀の逞しさと正反対の林由美香の弱さ。しかしそれがどうにも伝わってこない。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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ポルノによって貧乏な生活から救われたと語る林由美香は、製作者たちのハードな要求にものともせず、もっと自分という素材を晒せと主張する。これは死においても同じだろう、自殺も映画として晒してよいと彼女なら云うであろう、というのが本作の基調低音にある。

それを撮るのが監督、それができないのは監督失格、しかし彼女の母親を通してみればこれを撮るのは人間失格。監督失格の逆は人間失格なのだ。この含意が全体に浮かび上がるしっかりとした仕掛けが施されてある。乱暴に見せた外観だが、知的な作りがなされていると思った。

しかし不満なのは、監督なりカンパニー松尾が、なぜ林を愛したのかが全く判らないことだ。なぜ林が好きなのか、どういう魅力のある人物なのか、映画に何の説明もないのだから、心理学のサンプルないし動物を眺めるように観るしかない。

林は監督ふたりの純愛を退け、(おそらく)年下の恋人への当てつけで自殺したのだろう。この年下の恋人は画面に登場することはなかった。去る女と追いかける男というプルースト的心理は判りやすくも動物的である。

ラストの自転車疾走は空疎であり、私小説的に一方的な独白があるだけだ。そういう本音の爆発への私小説的な勇気を私は褒めたいとは思わない。ああ動物的だなあと思うばかりであった、

(評価:★3)

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