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[コメント] ライク・サムワン・イン・ラブ(2012/日=仏)

たとえばこんなラブソング。
モロッコ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







デートクラブで派遣されてきた女子大学生と老人の数十時間。 こういう映画、いいなあ。 最近の映画は役割や構図が分かりやすくつくられているものが多くて、こちらが察する必要の無いように、 丁寧に/親切にできている。比べると真逆なんだけど、でもいいなあ。

物語が進むにつれ、少しずつ理解していくそれぞれの関係性が心地良い。 (理解とは言っても、実際は大半が明言されず鑑賞者に委ねられているため推測でしかない) 唐突に始まり、唐突に終わる。 時間の感覚や場所の位置関係もよく分からなくなってくるのだが、必要な場面を必要なだけ見せてくる感じが 自分はとても好きだった。 『トスカーナの贋作』で監督のファンになったが、 観賞後の温かい場所でまどろむような感覚は前作のそれと同様だった。

女は老人のやさしさに甘えるそぶりを見せつつも心を開くことはしない。熱烈な恋人からのアプローチものらりくらりと交わすばかりで煮え切らない。眠ることで、現実から逃避していると見えなくもない。恋人は学歴に頼らず自力で這い上がってきたという自負が見え隠れする、少し暴力的だが女を一途に愛しているらしき男。最近は優しい男ばかりだからか一瞬「DV男!?」と思うのだが、韓国映画やかつての日本男児の姿を思えば極自然な男らしい男なのだった。老人はデートクラブで派遣されてきた女子大学生を可愛がり、何が起きても冷静沈着、大人の経験豊富さを武器に「大丈夫、大丈夫」を繰り返す。(でも最後あまり大丈夫じゃない状況になるけど…笑)

書ききれないほど多くの、というよりは全てのシーンが印象深く、女も男も老人も愛すべき存在として描かれている。不思議な三角関係とも言える。誰の思いも充分には届いておらず、しかしそれぞれがそれぞれの思いを心のどこかでは分かっている関係。残念ながら充分には応えられない関係。悲哀もあるし、可笑しみもある。

それぞれの胸に流れるラブソングが、それぞれの思う相手に届かず、空しく響き渡って拡散していくようなイメージ。いいもの観せてもらった気分。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ゑぎ[*]

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