[コメント] ライク・サムワン・イン・ラブ(2012/日=仏)
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オフの演出で、もう一つ特記すべきは、老人とその隣家の女の場面、初出の女の会話をワンシーンまるまる画面外で処理する部分だ。これは相当に奇異な演出だが、この見せない演出が、後に高梨臨へ話しかける女を見せるときの小さな窓の画面のインパクトに奏功しているのだ。その他にも携帯の留守録のお祖母さんの声や老人の留守番電話にかかってくる声などオフスクリーンの声に溢れた映画だ。ちょっと考えてみると、留守電にかかってくる仕事の用件などはプロットを進めることに殆ど機能していず、お話を効率的に語る上ではあってもなくてもよいような部分な訳で、しかも製作現場に負荷をかける(つまり金もかかる)演出なのだが、こういう肌理細かな演出が連なって驚くべき緊張感の持続が実現しているのだ。
ラストが放りっぱなしなのは好悪が分かれるところだと思うが、演出自体は矢張り大したもので、私のように単純に画面の強さに感動したい向きには充分納得できるエンディングだ。この老人の部屋のキアロスタミらしい大きな窓がいい。高梨臨が夜やってきたときは、老人から階下の路上への目線、ミタメがあったのに、ラストでは老人のミタメのカットが全くない。この選択が画面へ与える暴力性、強烈な運動の衝撃はどうだろう。唐突にエラ・フィッツジェラルドに引き継がれるクロージングの潔さ。私とて物足りない、もっと見たい、と感じる気持ちは勿論あるのだが、しかし、このエンディングが喚起する余韻の方が捨てがたいと思う。
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