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[コメント] 古都(1980/日)

途中までは覚束ないが、収束はとてもいい。制作側が本作を大歌手の引退興行の一貫として捉えているのは明らかだが、そんな思惑を超えた秀作と思う。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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いきなり序盤から「私捨て子なの」「ええっ」ジャジャーンはひどい。市川にしてはベタな盛り上げ方だと見ていると一方、雨の北山杉で百恵ふたりが折り重なるシーン、ここは本来の意味でのエロスが横溢すべきなのに淡泊、これは神代が撮るべき題材だったのじゃないか。三浦友和は出番が殆どなく、ファンの前から立ち去る山口百恵の帰る先、という興行的な意味合いなのだろうが、タイトルバックでは主演扱いなのに何でだ、という辺りもちぐはぐ感があり、沖雅也の軽薄な造形も情けなく、これは失敗作だなあと諦めかけると終盤とつぜんに良くなる。

實川延若岸惠子は終始、脇役を楽しむかのような名演なのだが、なかでもこの、両百恵を迎え入れる件の抑えた演技は抜群だ。養女しか知らないふたりの、肉親のふたりが並んでいるのを見て覚えるに違いない様々な感情を鏡のように映し出して余す処がない。この夫婦の寂しさが裏テーマだったのだと強烈に印象づけられる(途中の影絵のようなギミック・ショットが印象的に思い出される)。そしてふたりの添い寝の情感の溢れていること。岸と百恵の添い寝との相似形が効いており、感じ入った。

百恵は何で二度と逢わないのか。引退興行に引っかけているのは鬱陶しいので無視するが、身分違いというのが原作の説明だろう。しかし当時(62年発表)としても発想が古すぎで、老人文学のアナクロとしか云いようがない。しかし映画はそういう説明を超えた何か、理想的なふたりは一緒にいるべきではないという、牽牛織姫の如き認識が感じられた。そのようなラスト、霜の降りた町屋の光景が美しく、両百恵の抑えた表現も素晴らしかった。

(評価:★4)

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