コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 脳男(2013/日)

キャスト(主に生田斗真二階堂ふみ)の努力は買うが、『ダークナイト』を経過した観客を舐めてはいないか。「爆破がすごい」というプロモーションも「西部警察」を経過した観客を舐めてはいないか。
Master

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







原作未読です。

常人ならざる側を演じたキャスト陣が良い仕事をしている事については大いに首肯するところではあるが、プロットそのものそして演出方針が練られていない印象がきわめて強く、非常に落胆する作品に仕上がっている。

根本的な話としては、鈴木一郎に関して「感情がない」と言うのであれば、なぜ常人側から見ても「悪人」と判断できるものしか「処刑」されないのか理解に苦しむし、「殺人法を叩き込まれた」と言うのであれば、いわゆる「一撃で仕留める」方法を会得していないのかもしくは行使しないのかがなぜなのかよくわからない。

あと、末期癌の患者が爆弾作るみたいな細かい作業をできるのか。爆弾制作は水沢ゆりあ(太田莉菜)の役割にするぐらいの改変をしても良かったのではないか。

では、演出について。冒頭のバス爆破のシチュエーション。「目の前で散弾銃をぶち込まれるようなもんだ」というレベルの爆弾なら火だるまの男性がバスから出てきたり、黒焦げの子供が出てこれるような手合いではないはず。観客に対して矛盾する情報を与えるのはいかがなものか。

鷲谷真梨子(松雪泰子)の病院に水沢が潜入するカット。あんな「常人ならざる」外見(メイク)、行動丸出しで潜入するバカがどこにいるのか。おそらくジョーカーのイメージが強いためにこういう演出になってしまったのだろうが、ジョーカーは裏街道の人間で基本的に表世界に関与しないために成立する演出であることを理解していないのではないか。

おそらくは本作の肝と考えているだろう病院の一連のシーン。まず電気が供給されなくなるのは良いとして、あれだけの規模の病院が自家発電設備を持っていないのは不自然。緑川(二階堂ふみ)が病院内のシステムをハッキングしていると類推できるようにはなっていて、その効果なんだと強弁することは可能であるが、それだとそもそもの自家発電の意味がなくなるので、シチュエーション的に考えにくい状況であることには変わりがない。

そして、これは『ダークナイト』におけるジョーカーとデントが接触する病院のシーケンスと比較してもらえばわかりやすいが、端的に言ってすべてにおいてちゃっちい。建物内部の爆破カットと外部から見える爆破カットの出来の違いが露骨に過ぎる。もう、クオリティを近づけるのが無理ならそもそもやるなと言う話でしかない。もっと言ってしまえば映画を引き合いに出さなくても日本には「西部警察」という「爆破の宝石箱」が存在している事をもっと念頭に置くべきであった。

あと、表現されているすべての爆発が事実だとしたら、建物が崩壊する危険性も十分あるはずでそういった配慮がなされていない(それこそCGで崩壊させればいい)のも非常に残念。ダークナイトとの違いを想起せざるを得ず、スタッフ側がしっかり詰めて話を構築していないと判断せざるを得ない。

江口の演技プランが一本調子に過ぎるとかは上述の「至らなさ」に比較すれば枝葉末節。頑張ったキャスト陣には気の毒としか言いようがない。

もう、日本の映画は同様の予算が確保できない限り、ダークナイト的なことをやるのは禁止!という結論で良いかと思う。

(2013.2.9 109シネマズMM横浜)

(評価:★2)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)ガリガリ博士[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。