[コメント] 愛について、ある土曜日の面会室(2009/仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
何か感覚は僕の大好きなキェシロフスキの「デカローグ」に似ている。物理的なシチュエーション、人間の本源的な捉え方、それらはこの作品と共通する何かを持っている。
主話と思えた母親の息子の死亡原因を探る愛憎劇。犯人に会って真相を聴こうとする母親と若い男。でも知り得たのはある愛の終わりとそしてその濃密さであった。母親の息子への愛は古今東西不変のものがあるが、男と男(女でないところが現代的か)の愛の成就と別れを、受刑者のほとばしりとも言える言葉だけで表現したその凄さ。このタッチは映画としてホンモノだ。
長期刑の受刑者と容貌が酷似しているからという理由で、面会所で身代わり交換を請われる青年も、彼の日常はそんじょそこら、ごく普通のどこにでもいるダメ人間である。母親にも見切られ女にも愛相をつかされ、けれど男の女への愛の気持ちは一途であった。
身代わりになってしまうと女への愛の証は達成出来るが、自分は一生自由ををなくすことを覚悟しなければいけない。けれど迷うが彼は決心する。この映画で唯一のサスペンス的な動の部分である。ジャンパーを交換し瞬時に二人は変わる。うまい。二人の男、全く違う人間を見ているようで、しかもそれぞれの演技も的確。盛り上がるシーンだ。
けれど僕が感心したのは彼が決心して前夜に交わす女との愛の抱擁である。はすっぱ以外のどうしようもない女でしかなかった女も真実の愛の前ではすこぶる美しい。透き通っているほど美しい。抱きしめる男も哀しいほど美しい。これほど感動的な抱擁シーンもそうあるものではない。
もう一つの話。16歳の普通のサッカー好き女子高校生。たまたまバスで乗り合わせたロシアからの越境青年と盛り上がり(恋愛ってこういうものなんだよね)男に夢中になる。けれど青年は図らずも受刑所に入ることに。
ここが面白いところだ。未成年は単独では面会に行けないから(かと言って両親と行くわけにもいかないから)たまたま知り合った人のいい男性を連れて面会をすることになる。そうするとあれほど上り詰めた恋も徐々に色褪せてくる。これは恋愛の時間も密度もすべて知り尽くした出色のエピソードとなった。
今やフランスと言っても僕らが思い描く昔のフランスではなくなっているのであろう。アルジェリアとの政治体制の違和感。本国での失業率の増大。移民問題。これらすべてがこの3話に影のようにおぶさっている。その客観性。
それにしてもこの3話の緊密度は並大抵なものではない。愛について、それはまさに凝縮した筆さばきである。監督はまだ28歳の女性であるという。ものすごい逸材をフランスは送り出してくれた。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。