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[コメント] ホーリー・モーターズ(2012/仏=独)

傑作。なんという刺激に満ちた映画だろう。開巻の白樺が描かれた壁の造型を見た瞬間、既に飛び抜けたビジュアルセンスを感じる。そしてラストまで、ずっとニヤケっぱなしになり、映画って楽しいなって心から思うことができる。
ゑぎ

 この映画の画面の刺激−換言すると画面の快感は、ドニ・ラヴァンの乗る自動車−リムジンの緩やかな運動に拠るところが大きい。そういう意味で『めまい』にも連なる低速走行の自動車の映画だ。そしてもう一つ、目に留まる特質は高低を意識させる画面−特に上方向を意識させるショットによる緊張感というか画面の強さの維持だろう。冒頭の朝のシーンでは、テラスで手を振る妻子がいる。別の家の屋上に不思議な人がいたりもする。カイリー・ミノーグと入る百貨店の廃虚の場面はその屋内シーンも屋上のシーンも高低を活かした演出がどんどん繰り広げられる。その他、ラヴァンが帰り着く我が家の窓のカットなんかも指摘することができる。

 あと、実を云うと、『ポーラX』のような男女がワケもなく歩き回るシーンを久しぶりに見たいなぁと、ずっと思いながら見ていたのだが、ミノーグとの百貨店の廃虚を歩き回るシーンが挿入され満足していると、唐突にミュージカルまで始まるものだから、さらに感激した。

 さて、この映画にまつわる映画的記憶については数多く指摘することが可能だと思うが(伊福部!)、一つだけ。私は最初の出勤風景で映される邸宅がジャック・タチを想起させると感じた。モーション・キャプチャーのスタジオがある施設、その工場のような外観もタチの映画みたいだ。(施設へ入場する際に鼻毛で認証するのは笑える。)この時点で、本作はジャック・タチのような完璧な人工的創造物を志向しているのだと了解した。確かに、この後、タチのルックと全然異なりはするのだが、純粋に映画として計算され尽くした作りモノ世界が怒涛のように押し寄せる。或いはラヴァンの身体性をフィルム(本当はデジタル!)へ定着することに強烈にこだわる部分もジャック・タチへ連なっていると思う。

(評価:★5)

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