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[コメント] ローン・レンジャー(2013/米)

これもまたドラマの展開を強いられた中盤部に退屈が集中するというジェリー・ブラッカイマー方式の副作用に苛まれているが、『ランゴ』と同様に「緩衝材」(ここでは一九三三年のパート)を挟んで西部劇を対象化した上でなければ語ることができないゴア・ヴァービンスキーの距離感=畏れを私は尊びたい。
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ダーク・シャドウ』にもリハビリテーションの効果は乏しかったらしく、いまだにジョニー・デップの不調期は続行中だ。ここでもキャリアを通じて築き上げた貯蓄を食い潰すような芝居に終始している。しかしながら、この配役が不適当であるとか『パイレーツ・オブ・カリビアン』組の身内登用であるなどと云い切れないのもまた彼のキャリアのためだ。『ローン・レンジャー』におけるデップの役柄は「ネイティヴ・アメリカン」と「死んだ白人」のバディ・ムーヴィ『デッドマン』で彼が演じたものと逆転しており、またブロックバスターたるべき宿命を負った本作は、自らの血統が制作動機となったに違いない私的なシリアス作『ブレイブ』と好対照を成す。したがって座標の中心にデップを置いて『ローン・レンジャー』を見ようとすることは依然として誰からも妨げられるべき行いではない。

それはさておき、アーミー・ハマーがデップ以上のコメディ・センスの持ち主であったことは嬉しい驚きだ。上品な顔立ちの男前ながら親しみやすさも備えていること、リアクション芝居の豊かさ、とりわけ危機において危機の表情を精密に演じつつ、それを演じる俳優としてはユーモアを帯びた余裕を感じさせるあたり、資質としてはケイリー・グラントに近い。

さて、初めに述べたようにドラマ展開の消化に追われた中盤が退屈の誹りを斥けることは難しい。ヴァービンスキーほどの演出家が「映画のスジはもっと簡単でいい」という簡単なことを理解していないのは理解に苦しむが、終盤を形成する長大なアクション・シークェンスが高らかに鳴り響く「ウィリアム・テル序曲」とともに開始された途端、私はおいおいと泣き崩れてしまった。楽曲が誘い出す祝祭的な昂揚感もさることながら、途方もない量のアイデアと労働を注ぎ込んで『キートンの大列車追跡』に真っ向から勝負を挑むその蛮勇に激烈な感動を覚える。デップが鉄路の分岐器を操作し、二手に分かれた列車が並走を始めてからの緻密かつ絶え間ないアクション連携、この種の活劇から真っ先に連想されるのは云うまでもなくスティーヴン・スピルバーグだが、『ローン・レンジャー』の当該シーンは『インディ・ジョーンズ』全作を優に超えてみせるだろう。複数の主体が複数の地点で同時に並行・交錯・干渉し合うアクションとしてこれに匹敵する作をスピルバーグから挙げるならば、『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密』をおいて他にない。

(評価:★4)

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