[コメント] 破れかぶれ(1961/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
東西興業に出入りするチンピラ川地民夫は儲からないバーのマダム渡辺美佐子と相思相愛の同棲。バーの家賃儲けようと渡辺のカネくすねて競馬場に行くも、兄貴分江幡高志(彼が実にいい味出している)の賭け金を呑んでしまい(軽薄にも通りがかりの久木登紀子の予想に賭けてしまう)、バイク屋から代車だとバイクを持ち出して江幡に渡すが盗品とすぐバレる。
そうとも知らずに川地は美佐子に誕生プレゼントしようと、久木の部屋に隠してあった50万円相当の米ドルくすねる。しかしこれは東西興業の黒いカネで問題化。渡辺が江幡に競馬の金返しに行くと「それじゃすまなくなったんだよ」。そうとは知らない川地が東西興業に米ドルから競馬の分返済に行くと警察がガサイレしており、川地はとっさにゴミ箱へ米ドル捨てて、そうとは知らぬ刑事が絶妙のタイミングでこれを発見するといういいギャグがあった。見つかって逃げる川地は再びバイク屋(災難の河上信夫が面白い)からバイク盗む。バイク二台も合わせると川地の借金は幾らなんだろう。しかもガス欠で捕まり、ガード下の貧民窟でリンチ受ける。その間、住人はチンピラに表で待たされているのがすごい。明日が返済期限と云われた川地は美佐子の通帳みつけるが残金50円。
美佐子はエロ社長伊藤寿章に抱かれて50万円作る。川地の借金はここでも嵩んでいる。川地のほうは郷えい治から、美佐子がかけた生命保険があるだろう、殺して100万円手にしろと云われて嫌々乗ってしまう。なんて仕方のない奴だろうと観客は泣きたくなる場面である。バーで美佐子からカネができたと電話を受けた郷は、すぐさま川地にカネはできなかったと電話する酷薄なショットがあった。そしてクライマックス、待ち合わせ場所の路上にカネ届けに来た美佐子を川地はバックで轢き殺そうとして失敗。ライトのなか美佐子の表情を失くした表情が強烈に刻まれる。東西興業は全員逮捕で全てが終わり、町人が喜び去った後、地べたに這いつくばって泣いて「頼むから捨てていってくれよ」と泣く川地にスペイン語の教本投げて美佐子が去るラスト。キャメラはアスファルトの地べたスレスレのローアングルで、奥へ去る美佐子を捉えて延々ドリーで引くのだった。
スカタンの権化のような川地のドツボな悲喜劇は余りにも判りやすいが、一方の美佐子は判り難い。バーテンダー内藤武敏(元ボクサーで、回想が何度か入るのだが、キャラ設定のためわざとそうしているのか、本作はここだけがダサい。試合で人を殺したことがあるのだろう)の煮え切らない親切を拒否し、最後に事情を知って行くなと云う内藤に、私は川地を許すのだと出かける。言葉のない愛より言葉のある愛がいい、のというのが本作の結論だっただろうか。するとラストも、美佐子は川地を捨てた訳ではないのかも知れない。あるいは川地が捨てろと云うから捨てたのかも知れない。この放り出されたニュアンスに余韻があった。
川地はなんでアルゼンチン行が夢なんだろう。当時はブラジルではないのかと思ったのだが、たまたま読んでいた「広場の孤独」(51)にも、主人公の妻の唯一の希望がアルゼンチン移住と書いてあった。川地が改心して美佐子の経理手伝うとき、今はなきポケット型の計算尺を使っている。バーの裏口に来る保険のおばさん田中筆子が侘しくていい造形(美佐子は川地に内緒で川地宛の生命保険をかけていた)。ロケは上野から御徒町がメインで、ラストも国鉄の線路沿いなのだろう。当時の雑多に賑やかなアメ横が記録されている。川地は知り合いの中国人榎木兵衛に密航する気ないかと話しかけられている。モノワイド。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。