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[コメント] ハンナ・アーレント(2012/独=イスラエル=ルクセンブルク=仏)

恐らく世間では評判の高そうなこの映画にケチをつけるなんて弱気の僕にできる術もございませんが、実はあまり好きな映画ではない。
セント

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映像、演技、演出をもってしてさすがと唸らせるものは確かに多い。現実のアイヒマンをまるで登場人物に仕立てるような映像の処理もかなり面白い。密度の高い映画なんだろうなあと思う。

けれど主人公のハンナに僕は相容れないものを感じる。何百万人ものユダヤ人をハンコ一つで収容所に送り込んだアイヒマンを、「彼は思考することを放棄して命令に従っただけのただ凡庸な小役人である。」と。けれど、「判決の死刑は当然である」とのたまう。

まるで哲学を論じるかのように一個の人間をさらりと分析して見せたかのようである。

それはそれで構わないと思う。ただ感想めいてつぶやいたのではなく、彼女はそれを一冊の本に仕立てているのである。とすると立派に彼女の思想なりに結びつくことになる。

何百万人もの人間を収容所に送り、ただ単に判を押すことでも、その先にある死の世界を垣間見ることはあったはずだと思う。上官の命令でただ判を押していたといっても、人間であるなら責任という概念が出現してくるのではあるまいか。

アイヒマンは思考を放棄しているのではなかったはずだ。「数人を殺すと死刑、大量の人を殺戮する戦争は無罪。」そういう世界に入り込んでいたのではないのか。

あの当時の世界観はちょっと想像の域を超えてはいるが、ひとりが判を押さなくても別の人間が判を押したはずであり、彼個人としての犯罪ではないだろう。しかし何も考えていないのと思考を放棄しているのとは全然違うと思うのだ。

ただどういう世界(環境)であっても責任を取るということは必要だ。だから裁判では彼に責任としての罰を与えた。

映画的にはいい作品なんだけど、ハンナの考えるところに最後までこだわる自分がいて、この作品は僕にとって後味の悪い作品となってしまった。まあ、たまにこういう映画もあります。

(評価:★3)

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