[コメント] ウルフ・オブ・ウォールストリート(2013/米)
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実在したウォール街の狼と異名を取るジョーダン・ベルフォードの自伝を元に、破天荒な男の栄光と破滅を描く物語。スコセッシ監督はこういった人物を描くのがことのほか好きなようで、デ・ニーロ主演の『カジノ』や、過去同じくディカプリオを主演に据えた『アビエイター』と言った作品の延長線上にある作品と言って良かろう。
ただ、先行する二作品とは大きく違っている部分がある。
それは、本作は徹底して、ゲスな物語に仕上げていると言うこと。それは例えばオープニングにも現れている。下品な表現で恐縮だが、最初に裸の女の尻のようなものが現れ、一瞬、「これは何かの暗喩なのか?」と思わせておいて、カメラが引くと、そこにはやっぱり女の尻が現れる。これは、スコセッシ監督が、「これからお見せするのは、こんなものなのですよ」と宣言してるようなものだ。
そして実際本作は、まさしくゲスな物語として仕上がってる。
主人公は、全く悪びれることなく金儲けを至上の快楽として突き進む男であり、その徹底ぶりには賞賛せざるを得ない。
先行する二作品との違いを考えてみたい。『カジノ』との場合、オープニングで主人公が過去を振り返るシーンから始まったり、基本モノローグで物語が展開していくなど、本作とほかなり似てる。だが、あの作品はラストのどんでん返しも含めて物語の流れに重点が置かれていた。そして『アビエイター』は主人公のハワードについては、栄光と挫折と言うよりも、あくまでチャレンジし続けた男の生き様って感じだった。それは巨万の富を得た後、それを用いてなにをしたか。そこに話の主題があったからだが、本作では、終始金儲けだけが目的となっている。
そしてその先行二作品と較べると本作は底の浅さが際立ってしまって、物語の奥行きという部分がは感じられない。『アビエイター』が文学であれば、本作はパルプ、文芸の領域だろう。
だが、それこそが本作の主題だった。底の浅さを言う以前に、何よりもそう言ったゲスな人間を描きたい思いで作られ、本当に描きたいものを楽しんで描いていったと考えるべきだ。スコセッシにとっては、本作はひたすら作りたいものを追求して作った作品だったのだろう。『タクシードライバー』に対する『キング・オブ・コメディ』に近い。
そういえば、主題そのものは過去、やはり実在の人物を描いたデップ主演の『ブロウ』(2001)とほぼ同じなのだが、本作の方がはるかに見応えがある。これはディカプリオという俳優を得たことによるもの。『ブロウ』のデップは、どこかこの世離れしたところがあって、何を考えているか分からないような部分があったが、ディカプリオ演じるジョーダンには全くそれがない。終始牡としての欲望のみでそこから一歩も出てないので、その分嫌らしく描かれるが、それを渾身の演技で演じてみせた。ここまでやってくれれば、もう立派としか言いようがない。これに関しては、ディカプリオの演技力は、既に他の追従を許さないレベルにまで上がってると思って良い。それを観られただけでも本作を観る価値あるってもんだ(他の誰がなんと言おうとも、私にとっての2013年の主演男優賞はディカプリオ以外にいない)。タイトル通り、これが狼の生き方なのだから。
その極端さが受け入れられるかどうかだが、私には観てる間は少しだけボタン掛け違いのような違和感が残る作品でもあった。でも改めてこう書いてみると、いつの間にか受け入れている自分に気づいてしまった。
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