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[コメント] 日々ロック(2014/日)

ベタで雑で凸凹でツメも甘いんだけど、愚直な魂の叫びとその熱量に号泣する。泣けて泣けて仕方なかったから「ひよ子」買って帰ったよ。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







私はただ、二階堂ふみのアイドル・プレイをウヒウヒ観に行ったつもりでした。 正直、バカ映画もドタバタコメディーも好きではなく、場合によっては(あるいは体調によっては)冒頭から乗れず、それどころか嫌悪感すら抱いていたかもしれない映画です(そういう人も多くいるでしょう)。

しかし私は、嫌な感じを抱くどころか、映画始まって早々、このダメな主人公に共感すらしていたのです。 その理由は分かりません。強いて言えば、ロックに目覚める過程や理由などしち面倒くさい説明を一切ブッ飛ばして、「ウォー!ロックがやりてぇー!」の一本槍で押し切るのが潔く(そして音楽センスも抜群に心地よく)、素直にこの物語のレールに乗れたのです。 そしてその結果、何をどう説明していいか分かりませんが、とにかくその熱量に圧倒されたのです。

まったくバカバカしい話です。今時それはナシでしょってほどベタです。いろいろ雑で、そんな楽な終わり方でいいのかってほどツメも甘い映画です。 でも、熱いんです。 その愚かなまでの真っ直ぐさは、ある意味、黒澤明『白痴』すら想起させます。 泣いたわぁ。小手先のテクニックを超えた魂の叫びに胸を撃たれちゃったんだからしょうがない。誰が何と言おうと仕方がない。

原作は全く知りません。 入江悠にしてみれば『SR サイタマノラッパー』のメジャー翻案に近いのかもしれませんが、それも分かりません。 ただ私に分かったことは“現代ならでは”の映画ということです。

いやいや、ロックだ!ガンだ!って、いつの時代の話だよ?『愛と死をみつめて』か!『狂い咲きサンダーロード』か!昭和か!と思われるかもしれませんが、この映画の根底は「若者の貧困と格差社会」なんだと思うのです。『サイタマノラッパー』もそうですけどね。

これ、ちょっと前、昭和時代だったら、たいがい“貧困の理由”が説明されたものです。あるいは格差を“動機”とした事件や事態(上昇志向であったり殺人であったり)がストーリーの中核になったものです。貧困や格差が“悲しい過去”“事件の動機”という意味を持ったのです。

でも、今は違う。

貧困や格差に理由も意味もなく、ましてやそれを「社会問題」としてクローズアップすることが目的ではなく(むしろ社会問題化しちゃう方が昭和の古い発想)、社会の底辺でジタバタしている若者のジタバタしている様自体が物語になる。これ、今の空気感のように思えるのです。 むしろこの映画は、平成の『蟹工船』なのかもしれません。

歌は世界も救えなければ、人の命も救えません。それどころか、形にも残らない儚いものです。 それでも彼は、彼自身と彼女の魂を救うべく絶唱するのです。なんと美しい魂の叫びでしょう。

(14.11.29 MOVIXさいたまにて鑑賞)

(評価:★5)

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