[コメント] アメリカン・スナイパー(2014/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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イーストウッド監督は比較的戦争ものについてはよく手がけている。『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』から始まり、『父親たちの星条旗』、『硫黄島からの手紙』を経て本作へと至る。合計4作、それぞれ全く違う戦争について描いている(主人公が過去従軍したという設定であればもっと多い)。
その戦争映画についても立場的には『ハートブレイク・リッジ』は結構愛国寄りの、『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』はリベラル的と、描き方も変わってきているのだが、本作はどうだろう?
ネット上のいくつかの映画評に目を通してみたが、多くは本作を「愛国的」「好戦的」と称しているが、少なからずの人が、「戦争の嫌な部分を見せられた」というレビューを書いている。実際私自身もこれを観て、反戦的な作品というつもりはないが、少なくとも好戦的な作品とは思えないのも事実。
なんでこんなに評価が分かれるのか?
それはイーストウッド監督の作り方によるものじゃないかと思える。これまでの何作かの戦争映画がそうであったように、本作も監督のチャレンジ精神による部分が大きいのではないだろうか。
それはすなわち、“感情を交えずに描く”という部分。映画は監督の個性を表すものではあるが、それを敢えてシャット・アウトして、監督自身の感情面を全く出さず、フラットな形で映画作りをしてみた。
事実を事実として映画作りをした結果、観ている側は本作の奥にある監督の個性が見えなくなり、自分自身がいったいイラク戦争についてどう考えているのか?ということについてつきつけられることになる。
極めてフラットな作品なので、観ている側が「これは好戦的」と思えばそうなるし、「これは反戦的」と思えばそうなる。観ている側に丸投げしてしまってるかのようだ。 この作りは、似た作りでオスカーも得たキャスリン・ビグロー監督の『ハート・ロッカー』と比べると、違いがよく分かる。
あの作品も愛国的な作品なのか、戦争に批判的なのか観た当時はよく分からず、観客にどう感じているのかを突きつけるようなものかと思っていたが、観てしばらくすると、あれはかなり意図的にマッチョな作品に仕上げたのだろう。と納得がいった。似た作りであっても、あの作品にはちゃんと監督の主張が感じられるのだ。
対して本作は、戦争に関しては監督の主張というものが透けて見えない。イラク戦争に対し、肯定的でも否定的でもない。ただクリス・カイルという人物が書いた手記を丁寧に映像化することのみに特化した感じになってる。言い方は変かもしれないけど、ドキュメンタリードラマに近いものがある。それが魅力である。ただし、映画とは監督の主張を見せるものであるという先入観を持っていると、本作はどうしても物足りなさをどうしても感じてしまう。
だからこそ本作は相当特殊な作品ではないかと思える。
ただ、監督には主張がない訳ではない。改めて監督の作品を並べてみると、確かに共通するものがある。
それがPTSD(Posttraumatic stress disorder 心的外傷後ストレス障害)というもの。監督作品に登場する主人公たちの多くはPTSDに苦しめられる人物が多い。『パーフェクト・ワールド』や『ミスティック・リバー』はその顕著なものだが、『父親たちの星条旗』であれ、『ブラッド・ワーク』であれ、主人公は過去に犯罪もしくは戦争に直面して、そこで心の傷を負ってしまった人ばかり。そんな人たちを映画で表現したいというのが監督の一貫した思いなのかもしれない。
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