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[コメント] フォックスキャッチャー(2014/米)

観客を楽しませる作りになってないが、克己心の弱さという、映画があまり取り上げてこなかったテーマを描くのに、必要なスタイルだったのかもしれない。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 なぜ大富豪は自分で雇ったレスリングチームのコーチを射殺したのか。

 マーク(弟)だってオリンピックの金メダリストだから、克己心の強い人なのだろうと思うと、案外あっさり麻薬や酒の誘惑に負け、溺れてしまう。人間てのは弱いものだと思えばリアルだなとは感じるが、同時に軽く失望を味わう。映画がこれまであまり取り上げてこなかったテーマを描いた作品だと思う。スタイルとして、観客を楽しませる作りにはなっておらず、そこは残念だが、そういうスタイルを必要としたのかもしれない。

 クレジットを最後まで見ても、協力者にデュポン家のデの字も出てこない。デュポン側の協力は一切ないのだろう。ジョン・デュポンをことさら悪し様に描くことはしてないと思うが、都合の悪い要素を彼に押しつけて済ましている部分は当然あるだろう。そういう前提で観ても、やはりジョン・デュポンには一定の人を見る眼があって、シュルツ兄弟のうち、あえて弟に声をかけたのだと見える。マークに、自分と同じ種類の弱さを見たのだ。

 しかし、心のうちでは、兄・デーヴに憧れている。自分にない、強い克己心を持つからだ。だから自分で呼んだマークが弱さを発露すると(誘発したのは自分だが、その反省はない。何事も金で解決する環境で育ったからだろう)、あっさりマークを突き放し、今度はデーヴを招聘する。それによってマークは心に傷つくが、彼の心情を思いやるなんということはしない。

 彼のためにだけ(と思える)撮られたドキュメンタリービデオを観た直後にデーヴを殺しにいったという展開は、私には説得的だった。そこには、マークとの蜜月時代が映っていたからだ。見栄っ張りでわがままな自分にさえ調子を合わせることのできる、克己心の強いデーヴが、結局は二人の関係を壊したのだ(主因は自分自身なのだが)。したがって、言葉にしてしまうと陳腐だが、嫉妬が動機なのだと思う。

75/100(15/06/07記)

(評価:★3)

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