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[コメント] マカオ(1952/米)

典型的な雰囲気だけ映画。しかしそれが最高だし、これが映画だ。
ゑぎ

 逆に、本作程の水準までは求めないとしても、映画らしい雰囲気を作れないストーリー映画(物語というか梗概レベルでは良く出来ているとみなされる映画)には、何の価値もない、と思えて来るぐらいだ(極論ですが)。

 例えば、主人公の2人、ロバート・ミッチャムジェーン・ラッセルのキャラクターは最後まで正体不明、あるいは一貫性がない。。ミッチャムは元陸軍中尉ということだがその過去が意味深なまゝほとんど開示されない。ラッセルについては、スリとして登場するので悪女だと認識するが、それは序盤だけで、以降は純情な歌手になり一貫性がない。2人に絡む脇役たちも豪華版で、陽気な商人のウィリアム・ベンディックス、現地警察のトーマス・ゴメス、カジノのボス−ブラッド・デクスター、そしてデクスターの情婦(カジノの女)でグロリア・グレアムという、これだけを聞くと何と魅力的なキャストだろう。しかし、ゴメスは中途半端な役割しか演じないし、グレアムも本当に雰囲気を作るだけでそこにいるという役柄だ(ちょっと云い過ぎかも知れないが)。

 本編クレジットの監督名はスタンバーグ1人だが、サイトによっては、ニコラス・レイだけでなく、メル・ファーラーロバート・スティーヴンソンもノンクレジットで監督したと記載されている映画だ。スタンバーグの健康状態による交代、というようなものでもなさそうなので、撮影現場でのトラブルもあったのだろうと推察する。プロットの破綻や一貫性の欠如はその結果ということもあるだろう。しかし、だとしても、各シーンの魅力は半端ないものだ。

 まずは、ミッチャムとラッセルの2人が全ての出番で惚れ惚れするような美しさだ。船室で足元からティルトアップして登場するラッセル。云い寄る男にハイヒールを投げつけると、通路を歩くミッチャムにあたってしまうという出会いの場面。その場で2人はいきなりキスをする(その間にミッチャムは財布を掏られている)。商人のベンディックスからナイロンストッキングをタダでもらったラッセルは、その場で履き替える。投げたストッキング(履いていたもの)はミッチャムがキャッチするという演出。

 デクスターが経営するカジノ(店名は「クイック・リワード」)の造型もいい(ただし、スタンバーグであれば『上海ジェスチャー』のカジノの圧倒的なビジュアルセンスを期待してしまうが、それには及ばないとは思う)。こゝでラッセルに、2曲の歌唱シーンがあるというのも、本作の雰囲気映画としてのストロングポイントだ。1曲目の「ユー・キル・ミー」は本作のために書かれたものか。2曲目はスタンダードナンバー「ワン・フォー・マイ・ベイビー」でこちらの方が長尺だし、ラッセルのバストショットとアップが多く、歌の上手さも良く分かる、もうたまらんシーンだ。

 尚、アクションシーン、ミッチャムと悪役のデクスターやその部下の東洋系の2人(一人はイツミという名前なので日系人か)との対決場面は確かに弱いと思う。ただし、背景となる沢山の小舟に網がかっている波止場だとか、ミッチャムが監禁される建物の階段など、美術を活かした演出は繰り出される。あるいは、上でラッセルが登場間もなくハイヒールを投げるという場面のことを書いたが、デクスターの部下のイツミはナイフ投げの名人らしく、背中に向ってナイフを投げる演出が繰り返される。さらに終盤には、ラッセルがハサミを投げて、壁(ドア枠?)に突き刺さるというシーンもあり、こゝは、ナイフによる殺人を想い起させる。監督が途中交代しているとは云え、このような魅力的な細部の一貫性も認められる。

#備忘でその他の配役などを記述します。

・盲目の物乞い役でウラジミール・ソコロフ。彼は『荒野の七人』の村の長老。ちなみに、ブラッド・デクスターも後に『荒野の七人』の七人の一人を演じる。

・ベンディックスが入った床屋の女性が日本語で「どういたしましょう」と云う。この女性は続けて英語で「ジャイアンツとドジャース、どちらが好きですか?」

・ラッセルが人力車を呼ぶ際に、「リキシャ!」と叫ぶ。

(評価:★4)

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