[コメント] マッドマックス 怒りのデス・ロード(2015/豪)
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あまりの前評判の良さに、「たかがアクション映画がなんでそんな評価高いの?」と思っていたが、一見して分かった。この作品、とんでもなく質が高い。
質が高いというのは、アクション作品として優れているというのは大前提。核戦争後のディストピア世界を描いた嚆矢としての意地があり、その部分の無茶苦茶さは本当に感心出来るレベル。何もかも欠乏した世界で、節約など一切考えずあらゆる資源を浪費するだけ浪費する悪の組織の頭の悪さはいっそ見事と思えるほど。カルト宗教の要素を加えたおかげで、これまでの作品以上にその描写が映えさせることに成功している。自分の命なんぞいらないというぶっ壊れたようなキャラがやたら登場するため、カーチェイスシーンなんかも、アクロバティックで冗談のような動きで迫ってくる。よくこんなシーン考えついたもんだ。と言うレベルの描写が連続して出てくるので、見ていて全く飽きさせない。
敵側が完全にイカれてるので、それだけ正義が映えるというもの。題名に“マッド”が入っていることから分かるように、マックス自身も決して正義ではない。他のキャラと較べて、ちょっとだけ人を思う事が出来るに過ぎない。でもその程度でもこの作品では主人公としてちゃんとキャラ立ちした正義に見えてしまう。その辺のバランスが良く出来てる。
本作がとても上手いと思えるのは、そこからもう一歩踏み出しているところだろう。
成熟した社会というのは、より多くの人を受け入れる社会である。社会的に役立つか否かではなく、一人一人の個性を大切に、あらゆる人間の共生社会を作る。これは前近代からの宿題として、それなりに長い時間をかけて作られてきた。それは極めて非効率な社会だが、一人一人の個性を大切にする社会であり、とても重要な部分だ。政治的なバランスによって、全体主義と個人主義の狭間で揺れ動いているが、現在は基本的には成熟した世界を手に入れてはいる。
それを核戦争という形で一旦リセットし、近代化を一旦逆転させた。
その後に現れるのは、支配者にとって役に立つ者のみが生き残れるシステムである(ただ、ここで言う“必要”は様々。マックスが“輸血袋”となったように、医療用として血や内臓、場合によっては食料としてのストックとして必要とされることもある。又女性は子どもを産む機械として重宝されてもいる)。ギリギリの社会だけに、必要な効率を高めねば生き残れない、あくまで効率が最重要になる社会となる。ここに登場するイモータン・ジョーは、水を武器と自らのカリスマを利用して、極めて効率的な社会を作り上げたが、それは同時に人格や個性というものを否定する社会である。生き残りたければ、自分がいかに必要とされるのかをアピールするしかない社会制度を作り上げたわけだ。弱者の救済は基本的に支配者の情けに負っていて、それも自らの神格性を高めるためのものとして作り上げた。
これによって前近代的な社会ではあるが、効率的な社会が形作られた。核戦争後の、生きるのに苦労する時代にあっては、こう言う一人の人間を頂点とする全体主義的社会でなければ秩序は保てない。こう言う時に個人を大切にすれば、あっという間に殺し合いが起こって秩序は崩壊する。イモータン・ジョーはそれをよく分かっており、それ故に自らを神格化し、その言葉を絶対とさせる事を徹底させた。
これは人類を生き延びさせるためには必要な措置であり、人類を存続させるための効率を求めた社会となる。そしてこのような社会はどんな国でも何度も経験してきたことだ。 そしてこれはどの時代にも一定数必ずそういう社会を求める人は存在する。現代で言うならイスラム国がまさにそれを体現したものである。又、世界的な風潮として、自らの力で生き抜かねばならないとする、新しい意味でのコンサバティブな考えにも適合している。
それに対して、作品を通してはっきりと「NO!」を突きつけたのが本作となる。
元々映画というのは作家の作りたいものを作らせるという風潮から、リベラルなものを志向する傾向が強く、それは作風にも表れる。全体主義を嫌い、個々人の自由を重要視するため、基本的に映画的な娯楽要素は、全体主義者を悪とし、自由主義者を善とする作風に偏ることになる。
その極めて単純な作風を全く変えることなく、しかし今の時代に合うようにアレンジする事によって、視聴者にとって非常に分かりやすく、そして痛快アクションを絡める事で、心を高揚させるような作りに出来た。
基本に忠実に、単純に、娯楽要素をたっぷり入れる。本当に映画の基本中の基本をしっかり形にした結果、非常に質の高いものが完成した。それが本作である。
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