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[コメント] クリード チャンプを継ぐ男(2015/米)

今もアメリカン・ドリームは息づいている。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作の良さということを考えると二つの観方が出来るだろう。

 一つには、新しい若者が、この時代においてもやはりアメリカン・ドリームはあるのだ!という、原点である『ロッキー』に戻った作品として。

 本作はかなり一作目のものに近い。少なくとも現チャンピオンの指名によってほぼ無名のボクサーがいきなり世界戦を戦う事になるというストーリーフローは同じだし、その結果も同じ。夢を持つ者にチャンスは訪れるという基本設定を変えずに作っている。作りそのものはまるで70年代に戻ったんじゃないか?と言うくらいに古いし、設定もありきたり。だけど、それで心が熱くなる。今となっては最早陳腐と思われているアメリカン・ドリームなるものが今もまだこんなに面白いのだ。映画はやはり魔法であり、その魔法を使える作品はまだまだ作れるってことをしっかり伝えてくれている。まさに本作には、エンターテインメントの原点である。

 そして二つ目。本作が、ちゃんと『ロッキー・ザ・ファイナル』の続編となっていると言う事。

 本作の主人公はロッキーではなくアドニスであり、当然画面に出ている割合も圧倒的にアドニスの方が多い。実際新しい視聴者層にとっては、それで充分だろう。一方古いロッキーファンにとっては、老いて尚これだけの存在感を持つロッキーの格好良さに惚れ惚れするのだ。

 『ロッキー・ザ・ファイナル』でイタリアン・レストランのオーナーとなったロッキーは今も店を続けており、習慣も続いている。ただ自分でボクシングをしようという気は起きないし、ボクシングの世界からも身を引いているが、そんなロッキーがアドニスの情熱に押され、再び心に熱を灯していく。この世に執着を取り戻していく。ロッキーを主人公として観ても、きちんと本作は続編として観られるのだ。かつて取りのように軽やかに駆け上がったフィラデルフィア博物館の階段を、今度はアドニスに手を取られてよたよたと歩いて登るロッキーの姿が、やけに格好良く見える。

 この二つの物語が、きちんとバランス取れているというのが本作の一番素晴らしいところ。どっちか一方に偏ってしまうと、バランスが取れなくなってしまうし、それこそ悪い意味で『ロッキー5 最後のドラマ』の再現となりかねない。正直、それを一番危惧していたのだが、思いもかけずこんなにバランスのいい物語を観ることが出来てとても嬉しい思いにさせられるのだ。

 何より、『ロッキー・ザ・ファイナル』のラストシーン。エキシビションマッチでの試合を終え、花道を戻るロッキーの手が伸ばされ、誰とも知れない若い手が伸び、グローブにタッチするというそのシーンが、ちゃんとロッキーの後継者が現れたという証拠として現れているところが感動的だ。10年のタイムラグが一気に無くなり、「ああ、これこそ本当にロッキーの続編なんだ。と思わせてくれる。

 と言うことで、古い映画ファンの私から観ても本作はとても面白かったし、ちゃんと新しいファン層も獲得できたのではないかと思う。過去のファンを納得させ、しかもちゃんと面白く仕上げるという難事業をしっかり作ってくれた監督の力量だろう。

 幅広い人達に観て欲しい作品が登場したことを素直に喜びたい。

(評価:★4)

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