[コメント] ガールズ&パンツァー 劇場版(2015/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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2012年に放映された深夜枠のTVアニメ「ガールズ&パンツァー」。これは女子高生が戦車に乗って実弾を撃ちまくり、しかもそれが家元もある戦車道なる日本古来の女子のたしなみとされるという、はっきり言って無茶苦茶な設定で始められたアニメだった。普通こう言うネタ系アニメはひっそりと埋没していくものだが、この作品については回を追う毎にどんどんファンを獲得していき、今なお語られるアニメの一つとなっている。
それはこの作品がどんなに無茶苦茶な設定であっても、一つ妥協しないポイントがあったからだと思う。
それは他でもない。戦車戦の描写である。一台一台の戦車の特性をきちんと把握した上で、作戦上必要な行動を取らせる。この一点に尽きた。ただし、これはスタッフの知識や技量に大きく依存することとなり、最も面倒くさい作りになる。戦車一台一台が、現実に存在した戦車そのものをきちんと描写しており、女子を見るよりも戦車を見ていたい。いや、どっちも見たいという人にとっては何より嬉しい時間を提供してくれたものだ。
物語自体は非常に単純化され、キャラ描写よりも戦車戦を行うためにこそ物語が作られており、その潔さに惚れたファンも多い。
そしてこの劇場版、「凄い」の一言である。
何が凄いかって言えば、スタッフがこの作品に何が必要なのかを完璧に把握していたと言うこと。
繰り返しになるが、それは、劇場用のふんだんな予算を用いて、戦車戦に特化して描くということに他ならない。
この戦車戦以外の描写は、正直「ここまで割り切るか?」というレベルで全く描かれてない。存続が決まったはずの大洗女子学園が閉鎖される理由はTV版と全く同じで、その理由として「事情が変わった」以外の説明はないし、その解決方法もTV版と全く同じ。女の子が沢山存在するのに、せいぜいやってることはお風呂に入って親睦をしたり、一緒に寝泊まりをしたりと言った程度。主人公の西住みほには多少描写の枚数が取られているものの、友人との交流や実家との和解と言った描写も必要最小限。ライバルキャラの出現も、ほんの一瞬接触があるだけ。結果、作品の尺の半分以上は戦車戦に取られることになった。
映画でここまで割り切った描写をしたら、もう「立派!」としか言いようがない。ここまで物語をないがしろにしておいて、それでちゃんと面白い作品を作れるんだからもう立派すぎる。
作品の全てを戦車戦に賭けただけあって、都合二回ある戦車戦の描写は、もう「素晴らしい!」の一言。
最初に大洗で行われる戦車戦だが、これは戦車戦そのものを人物紹介に充てている。TV版に登場した幾多の高校がぶつかり合うところで、戦いの中で一人一人の個性を描いており、主人公との会話なしにちゃんとコミュニケーションが取れている。しかもそのキャラというのが戯画化された、戦車のモティーフとなった国特有の描写となっているので、性格が把握しやすい。ほとんど会話無しにちゃんとキャラ立てが出来ている。
しかもこの一度目のエキシビションマッチは個性を把握させるためだけでなく、来るべき本番に備えていくつもの伏線がばらまかれている。
例えば劇場版初参戦となる日本軍の九五式及び九七式戦車が登場するが、戦車自体の性能があまり高くなく、それをカバーするために、むやみな突撃を繰り返す。そんな高校との共同作戦になってるために、最初のエキシビションでは大洗女子学園は敗北を喫することになる。ここが二度目の本番の戦いでは、それを反省し、教訓とすることで局地戦での勝利を得ることになるし、それぞれが自分達の持つ個性を生かしたり、あるいは反省したりすることで二度目の戦いに備えるようになっていく。この辺は一度だけでなく、何度も見れば、それだけ細かく伏線が張られていることが分かってくるのだろう。
そして二度目の戦いでは、これまでのライバルが味方になって参戦するというテンプレの燃え展開を経た上で、更なるバリエーション豊かな戦いが展開されることになる。敵である大学混成チームが基本イギリスのセンチュリオンという画一的な戦車を用いているのに対し、ヴァリエーション豊かな混成チーム(ドイツ、ソ連、イタリア、アメリカ、日本の混成)が、それぞれの特性を活かした戦術を張りつつ、新しい戦術を戦いの中で考案していく。ここまで張った伏線を回収しつつ、戦いを通してお互いの気持ちを確かめ合うという構成で、全く飽きることなく見せてくれた。素晴らしい出来である。
本作の最も重要なところをぶれることなく映画化したその姿勢には改めて感服した。物語は最低。しかしその最低さこそが最大の強味につながる。そんな作品があっても良い。
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