[コメント] 幽霊と未亡人(1947/米)
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序盤の幽霊譚の面白さに心が躍った。流麗に動くクレーンと切り返しの意外なアングル(扉を開けると向かいから極端な俯瞰で撮る切り返しがいい)、やたら盛り上げる音楽、モノクロ撮影は抜群で、顔だけ闇に浮き上がる肖像画、壁を這う巨大な影や天井に映された雨粒が流れる窓の影など箆棒、私的ベストショットは突風に開いた窓から室内に降り注ぐ雨粒のひとつひとつが輝く神憑り的なショット。
こういうギミックを中盤以降使用しない判断は大人の演出というべきなのだろう。出版の成功とか、ジョージ・サンダースが妻子持ちだったという三角関係のオチなど、通俗でややダレるが、素晴らしい終盤の前振りなのだから構わない。この終盤はラブコメ・ロマンスの傑作だろう。レックス・ハリソンの幽霊をどうしても思い出せないジーン・ティアニーという件(4時ちょうどを指す時計の神経症的な反復ショットがすごい)は、何か人生そのものの感慨があり、『時をかける少女』が収束でパクっているのが確認できる。娘のナタリー・ウッドがとうからハリソンを知っていたという意外な告白も、人生の機微を感じさせるものがある。
そしてラスト、老いたティアニーの亡骸を捨てて若返った彼女がハリソンと去るショットは、イ・チャンドンが『オアシス』でフル活用しているのが認めらる。扉を開けて海へ去るふたりというラストショットは、海への思慕という主題を見事に反復している。死の待望という呆気にとられるラストは突き抜けており、バホダ『汚れなき悪戯』(55)やドライヤー『奇跡』(55)と通底する世界観がある。本作はこの2作より先行しているのだ。キリスト教を含みとした倒錯を厭わない老齢のひとつの真実を確かに捉えている。三角関係に身を引き、ティアニーがあっちの世界に来るまで待っていたハリソンはいい奴で、女性映画の便利な男性像という側面もあろうが、彼の造形はそんな厭らしさを感じさせなかった。
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