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[コメント] スキャナー 記憶のカケラをよむ男(2015/日)

回想と泣かせのしつこさ、台詞が多分に説明的であるなどいくつか気に入らない点もある。しかしそれでも金子修介の職人的手腕がいかんなく発揮された彼にとって久々のメジャー映画にして秀作であることは確かだ。タイトルの円運動と音楽、消えた女への執着、殺人鬼の造形、ドリーズームなど随所でアルフレッド・ヒッチコックを連想させるがパロディの域は出ていないか。
Sigenoriyuki

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







他人に見えないもの、あるいは他人が見ないものを見る人物というのは非常に映画向きの存在だ。認識のずれが笑いやサスペンス、あるいは感動をも呼び起こす。

爪ヤスリの残留思念を通して本来杉咲花に語られていたはずの木村文乃の言葉が野村萬斎を勇気付ける、あるいは終盤バスケットボールの残留思念が野村萬斎を通して安田章大に語りかける。例えばこれらの場面において木村文乃の言葉が杉咲花ではなく始めから野村萬斎に向けて語られていたり、野村萬斎がバスケットボールの少女の言葉をそのまま伝えようとせず勝手に言葉を解釈して安田章大を説得しようとしていたなら今よりはるかに安っぽいメロドラマに成り下がっていただろう。残留思念を通して語られるこれらの言葉は後から変更するができず、そして極めて私的なもの=ある一人の人間以外その本当の意味を知らないからこそ強いエモーションを与えるのである。爪やすりやバスケットボールといった媒介から引き出された言葉は文脈を考慮せずに1人の人間以外にその本来の意味を理解させないまま剥き出しのものとしてぶつけられる、語られる内容だけに価値を持たせない、ただの説明に留まらせず心をゆさぶりかけるのだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)死ぬまでシネマ[*]

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