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[コメント] 秋立ちぬ(1960/日)

銀座四丁目。乙羽信子大沢健三郎(小学6年生)が信州上田から出てきた場面。公園の横を通って歩く。橋のところで踊りの稽古へ行く(から帰る?)女の子−順子(小学4年生)に会う。
ゑぎ

 以降この橋が何度も映る。新富町あたりの八百屋「八百常」。藤原釜足賀原夏子の夫婦と、息子の夏木陽介が切り盛りする店。こゝに大沢はあずけられる。藤原が乙羽信子の兄。乙羽は、築地川沿いの旅館に住みこみで働く。大沢は夏休みなので、八百屋を手伝う。従兄の夏木は、バイクに2人乗りで、夜の高速道路のドライブに連れて行ってくれたり(ノーヘルだ!)、カブトムシを採りに多摩川へ連れて行ってくれたりする。

 大沢が公園で、ダッコちゃん人形を持っている順子に再会する場面。こゝで、もう魔法のようなアクション繋ぎを見ることができる。そして、こゝから完全に子供二人が主役の映画になっていく。しかし、決して児童向けの映画じゃない。成瀬らしい、厳しく冷たい、突き放した描写が続くのだ。

 順子の家は実は乙羽が勤める旅館で、母親は女将の藤間紫。藤間がとてもいい雰囲気を醸し出すのだが、しかし、彼女は河津清三郎の妾だ。河津が本宅の子等と順子を会わせる場面は特筆すべき冷たく厳しいシーンだ。

 松坂屋の屋上から海を見る二人。二人だけでハイヤーに乗り、晴海ふ頭へ出て、貨物線の線路や、だだっ広い埋め立て地を歩く。順子が自身の境遇もあり、大人の男女の関係や、世の中のことを、ませた口調で話すセリフも面白いが、荒涼とした背景に子供二人を置くことで、二人の孤独が際立つ画面造型だ。

 映画の終盤、大沢に親切にしてくれてた従兄の夏木は約束をすっぽかし、母親の乙羽は遠くへ行ってしまう。さらに、順子とも会えなくなるのだが、これ以上はこゝでは書かないでおこう。主要登場人物の死でエンディングをむかえる成瀬作品も多いので、本作はそこまではいかないが、それでも、これも負けず劣らずの厳しい突き放し。こんなエンディングかよ!と思いながら、この宙ぶらりん感が私には爽快。

(評価:★4)

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