[コメント] 彼は秘密の女ともだち(2014/仏)
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女装家の男とレスビアンの女の恋、という風変わりなモチーフを扱うが、その描き方はきわめて平易であり、弱い心を抱えた多くの人々に抵抗なく納得してもらえる大衆映画の側面をもつ。そこから読み取れるのは、一度きりの人生を受け取ったわれわれに与えられた権利を行使する正当性である。ロマン・デュリスが初めて女装したままでショッピングに出かける際のユーモラスな演出に、人は共感する心と応援を求められるだろう。
だが、次第にその感情と、アナイス・ドゥムースティエの心を封印した「普通人」の心の塗膜との葛藤が悲しさを誘い、そして次第に頭をもたげるドゥムースティエの同性愛者としての自覚がわれわれの思いに混乱をもたらす。これあればこそ、最終的にふたりが結ばれるラストには疑問をはさむ心を抱く人もあるだろう。ラファエル・ペルソナを退けてふたりが幸福を得ていいのか、と。
しかし、それは許されるのだ。弱弱しくはかない権利への要求しかできなかったデュリスたちには人生において、自分が求めるものへの渇望は生前に明らかにすることすらできなかったろう。だからこそその欲求は正当であるのだ。ペルソナはたとえば、現時点において人生の勝利者であり、彼の欲求はつねにリアルタイムで叶えられてきた。彼にとって、家庭の破局などは些末事に過ぎず、また立て直すことのできるものだろう。だが、デュリスと、いまや自分が同性愛者であることを認識したドゥムースティエにとって、叶えるべき権利の享受のチャンスは今をおいてないのだ。物語がかれらに味方する所以である。
もとよりお伽噺のような、あるいは寓話のようなお話だが、これを描いて観念的に表現することなく誰にもわかる易しさで表したオゾンの意志に敬意を表する。この平易さはメッセージ性の高さと監督の本気をはらんだものだ。
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