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[コメント] セデック・バレ 第一部 太陽旗(2011/台湾)

逃れられないヤクザ映画の組織論理
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映画百年、昔のハリウッドでネイティブ・アメリカンの叛乱が肯定的に撮られることはなかった。本作を可能にしているのはポストモダンな文化多元主義の思想であり、世の中捨てたものじゃないとしみじみ思ったことだった。

冒頭の鹿の生肉喰らう描写や頭蓋骨山積みの描写にはとんでもない凄味がある。本作は観るものを無理矢理にこのセデック族の一員にしてしまう。ハリウッド調の音楽が終始お前も一緒に戦えと誘う(音楽抜きなら印象は相当違うものになるだろう)。この典型を射止めているのが本作の価値と思う。蛮刀振るって首をぽんぽん叩き切る描写はド迫力。このような存在が滅亡を志向せざるを得ないのも説得的だ。

モーナ・ルダオは映画では、若い衆の叛乱を押さえきれずに、負けると判っていて旗頭に立つ者として描かれる。「勝ち目がないのになぜ戦う」「掟のためだ」「負けて何が得られる」「誇りだ」。日本陸軍から北朝鮮まで、逃れられないヤクザ映画の組織論理がここでも生々しく語られる。そして一直線の叛乱。史実を前にして、やっぱり造反無理だよなあと軽々に書き残す気分にはなれない。

なお、台湾の日本軍隊を相当にマヌケに描いているが、これは史実らしく、小熊英二の「<日本人>の境界」に「当時の内地メディアからは、「台湾は内地の人の掃溜場」と形容されていた」実情が書かれてあったのを思い出した。モーナ・ルダオが日本渡航を回想して、内地の人は優秀だったと語るのと合致している。

(評価:★4)

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