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[コメント] 愚行録(2016/日)

はっきり云って内容−スクリプト的には全く好きになれない作品だが、形式というか技巧的には、かなりよくやっていると思う。長編映画デビュー作としては大したもんじゃないでしょうか。
ゑぎ

 冒頭のバス内の横移動スローモーション。席を譲る(譲らされる)妻夫木聡がラストでも反復されるのはスクリプトかも知れないが、窓外の雨なんかを含めた画面造型でキャッチさせる。

 また、メインの時間軸である妻夫木が雑誌記者としてインタビューするシーンや、収監されている妻夫木の妹−満島ひかりを映したショットは、固定もしくは緩やかなドリー移動を主体とする安定した画面であり、インタビュー相手(眞島秀和臼田あさ美中村倫也市川由衣といった話者)の回想のようなフラッシュバックについては、ハンディカメラによるシェイキーな画面だ。このようなカメラワークの対比も効果的だと思う。ちなみに「回想のような」と書いたのは、各フラッシュバックの導入部は回想形式だが、過去のシーン(主に小出恵介松本若菜の大学生時代、一部会社員時代などの近過去)は、話者が見ることのできた場面だけではなく、明らかに話者不在の場面もあり、いわば、本作の作者の視点で造型されている。

 他にも感心させられる細部は沢山あるけれど、終盤で満島と精神科医の平田満との面談と、妻夫木と満島の弁護士−濱田マリとの車中での会話をクロスカッティングで繋ぐ部分には息を呑むような高い緊張感があった。2つの場面がドリー前進移動、横移動で撮影されていて、最終的に右向きの満島と左向きの妻夫木の横顔アップになる演出。

 あと、フラッシュバックに近いが、夢のようなイメージ処理として、横臥する満島に手が伸びてくる(沢山の手に触られる)シーンが2度ほど挿入されるのだが、これも非常に凝った照明の絵画的な造型で印象に残る。この手が誰のものかという点を推測するのも楽しいが(答えを示唆するショットもある)、ただし、こんな勿体ぶった演出は、私は好きではない。このイメージ処理自体無くても良いとも思う。それと、オミットした方が絶対にすっきりすると感じたのは、2回目の臼田あさ美のインタビュー場面の最後に、妻夫木が行う暴力シーンだ。これは流石に無理筋だろう。

(評価:★3)

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