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[コメント] 乱れ雲(1967/日)

これだけ“強い”男が描かれているのに、何故“弱さ”ばかり見えてしまうんでしょう?
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作が成瀬監督の遺作となる。成瀬監督は特に男女間の情け容赦ない描写が得意だが、本作はかなりそれらはソフトに描かれている気がする。多分それは本作の構成がどれほどきつくても、一人の男と一人の女のメロドラマに仕上げられているからなんだろう。

 この二人の関係は主人を殺した男と、それを恨む妻という関係だが、お互いに最低の関係のまま長い時が過ぎていき、その関係が微妙に変わっていくところが肝だろう。  申し訳ないが物語についてははっきりと「好みじゃない」としか言いようがないのだが、ただ主演二人の絶妙な演技は確かに見事。司葉子は場面毎に表情が変わっている。冒頭シーンでの慈しみに満ちた顔が、告別式の時には完全に表情を消し去っており、援助を申し出る三島を拒絶する時の感情むき出しの表情、そして少しずつ表情が軟らかくなっていく過程。一つ一つの画面に見栄えがしていて、その表情を見ているだけで巧いなあ。と思わせる。それで一方の加山雄三も男の強さと弱さを見事に演じ分けている好演を見せている。やせ我慢を強いる男の姿はそれはそれで凄く格好良いし、時折ぽろりと本音が出てしまい、それに照れる姿も良い。割と軽目に見られがちな加山も、こういうしっかりした役だってちゃんと出来る(と言うか、トータルで見るなら、映画ではしっかりした役を演じることの方が多いんだけど)。

 それとやっぱりカラー作品だけに、田舎の風景がよく映えていた。春には瑞々しい新緑と湖の青さが、秋には紅葉の明るさが、そして冬の寒さが。日本の四季を巧く切り取って画面に出していた。

 ただ、どうしても不満を感じてしまうのは、加山演じる江田の行動が由美子に対する憐れみではなく下心によってなされている印象をどうしても拭えなかった点だな。単に私の性格の問題か?

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)草月 TOMIMORI[*]

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