コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 怪物はささやく(2016/米=スペイン)

時に現実からかけ離れたファンタジー作品の方が現実の核心をついていたりするのだ。
deenity

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







こいつはまた面白い作品ですね。ファンタジー作品でここまでグッと来る作品って今まで出会ったことがなかった気がする。ファンタジーだから現実的とは言い難いのだが、間違いなく本作が捉えていたのは目を背けてはいけない現実であるのだ。

少年・コナーは心優しい男の子。しかし、その周囲に取り巻くのは母親の病、いじめ、祖母との関係、悪夢など目を背けたくなる問題ばかり。特に母親の病は本作のメインテーマである。そんな現実に辛くなった時、コナーは絵を描く。唯一の現実逃避なのだ。しかし、コナーは12時7分に決まって謎の怪物と出会う。怪物は3つの物語を語り、4つ目は自分の真実を語れと迫る。

面白いのは怪物の語る物語。どれも絵画的描写で非常に趣深い絵であるのも魅力的だが、内容も面白い。どれもハッピーエンドとは言い難い。「人殺し王子は国民から愛される」「調剤師は嫌な奴だが正しい」など、明確な正義、明確なハッピーエンドはそこにはない。今思えば母と二人で見た『キングコング』もある種そこに沿うストーリーである。つまり、この世には正義がハッピーエンドを送るとは限らないのだということ。 これは今大人になってみるとわかることだが、これくらいの大人になっていく子どもからすると受け入れ難い現実なのかもしれない。だからその現実と向かい合わなければいけないコナーからすると、本作は少年が大人になっていくイニシエーションの作品でもある。

そんなコナーが向き合わなければいけない現実。つまりは悪夢。怖くて逃げたくなることかもしれない。それでもそれが真実。しかし悪夢とは限らない。ハッピーエンドにするかどうかは自分次第でもある。

少年の成長譚でもある本作は間違いなく傑作。『パンズ・ラビリンス』と通ずるようなファンタジーであるのに現実よりもに本質に触れていて深く心に刺さる。あの怪物、そして絵を描くことを教えた母親の存在を思うともっと心が温まる。加えてコナーを演じたマクドゥーガルくんの演技は抜群によかった。絶妙な何とも言えない表情はこの作品の欠かせない魅力の一つ。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)水の都 ヴェネツィア

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。