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[コメント] 35杯のラムショット(2008/仏)

クレジットバックは、走る電車の先頭車両、運転席あたりから撮った、線路の画面。BGMが日本映画みたいと思ったが、小津映画(斎藤高順とか)というよりも、1970年代松竹映画風か。
ゑぎ

 本作は、年頃の娘、大学生のジョセフィーヌ−マティ・ディオップと、その父親で電車の運転士リオネル−アレックス・デスカスの二人が主人公。この二人に、アパートの隣人で、女性タクシー運転手のガブリエル−ニコール・ドーグと、何をしているのかよく分からない青年、ノエ−グレゴワール・コランの二人を加えた四人が主要登場人物だ。

 本作も全く説明的な描写を廃した映画なので、最初、リオネルとジョセフィーヌの関係が親子というより、歳の離れた恋人(愛人)同士に見えると思ったのだが、それぐらい、スキンシップの多い演出なのだ。フランス映画としても、ちょっと過剰に仲のいい親子の描写じゃないだろうか。この部分は、多分に『晩春』の近親相姦的ほのめかしを意識して演出されているのだろう。

 さて、全体に良く出来た作品だが、中でも真剣に驚いたシーンがある。それは、ジョセフィーヌとノエが、二人でジョギングをするシーンだ。運河の側を走っている際、ノエがいきなり水に飛び込み、クロールで泳ぎ出し、10メートル程度泳いでから道に戻って、また走り出す、という場面。こんなヘンテコな演出を全くあっけらかんと成立させるなんて、こんなの他で見たことない、というシーンなのだ。

 さらに、最も良いと思った部分は、四人で、コンサートへ行くと云って外出する、夜のシーケンスだ。ガブリエルの車(ベンツのタクシー)で走り出すと、大雨の中、車がエンストしてしまう。コンサートを諦めて、無理を云って閉まっているバーを開けてもらい、四人でしばし過ごすという展開。このバーでのダンスシーンが素晴らしい。BGMは「シボネー」からコモドアーズの「ナイトシフト」。リオネルとジョセフィーヌの優しいダンスのショットもいいが、ジョセフィーヌとノエのダンスを見るリオネルの視線。そして、リオネルとバーの女店主のダンスを見つめるガブリエルの視線。この二つの視線の演出が絶妙だ。

 あと、冒頭リオネルが買ってくる赤い炊飯器は、赤いヤカンか。キッチンに二人ないし三人が立って食事するショットは、親子で渓流釣りをするショットを想起した。ノエの部屋に「塩」のホーロー看板が天地逆さまで置いてあって、映ると、目が行ってしまって困った。隠れていてよく見えなかったが、多分「たばこ」の看板もあったと思う。

#ドイツのリューベックのシーンで、イングリッド・カーフェンが出て来る。

(評価:★4)

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