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[コメント] デュエル(1975/仏)

これもすこぶる面白い映画だ。全カットが刺激に満ちている。ファーストカットは、大きな球(バランスボールみたいな)に乗ったリュシー−エルミーヌ・カラグーズ。その上半身とバランスを取る右手のカット。左手は、ピエール−ジャン・バビレが持っている。
ゑぎ

 この冒頭は本作の象徴なんだろうと思う。場所はホテルのロビー。ピエールは、リュシーの恋人かと思ったが、中盤で、二人は兄妹だと分かる。ピエールは退場し、フロントの仕事に戻るリュシー。こゝに、レニ−ジュリエット・ベルトが登場する。彼女が映ると、がらりと画面のムードが変わるのだ。レニは気前よくお金を使う。この時点で、紙幣のこすれる音(効果音)の大きさが奇異に感じる。全編こういったノイズが耳に残るように演出されている。レニは、リュシーに探偵を頼む(何を頼んだのか正直よく分からないが、それでいいのだろう)。続いて、ピエールとジャンヌ(エルサ)−ニコール・ガルシアを追うヴィヴァ−ビュル・オジエのシーンになる。

 以上の5人が主要登場人物で、プロットを人物の関係で整理すると、レニとヴィヴァは、ピエールとジャンヌが隠している魔法の石を手に入れようとしている。そのため、レニとヴィヴァは対立関係にある(タイトルの意味を表している)。そして、何も知らないリュシーが、この争いに巻き込まれる、といったところか。この人物関係の概略も見終わった今だから記述できるのであって、見ている最中は、ほとんど何がどうなっているのか分からないのだが、そこがまた本作の面白さでもあるのだ。

 本作の刺激に満ちた演出の中でも、私が特記しておきたいと考える場面をあげておこう。まずは、ヴィヴァがピエールを誘惑するホテルの部屋のシーン。こゝで2回、イマジナリーラインをまたいだ180度のカメラ位置変化(どんでん)がある。また、二人だけのはずたったのに、なぜか、いつのまにか初老のピアニストがピアノを弾いているのだ。面白い!

 本作のピアノを中心とした劇伴は、全編とても魅力に溢れているのだが、特に、中盤のジャンヌ(エルサ)の勤めるダンスホールのシーンは出色の出来だろう。こゝは主要人物5人が皆集まる、という意味でも見応え十分のシーンだが、それぞれが、ピエールとダンスや会話をする際の、人物の出入りの見せ方、コントロールの仕方が抜群にカッコいい。こゝで魔法の石のカットが挿入され、ピエールが、大きな鏡を砕いた後、レニとヴィヴァの対決を見せる外連味たっぷりの演出が、本作の白眉だと私は思う。ちなみに、このシーンでは、湖に沈む騎士への言及があり、ブレッソン(『湖のランスロ』)を意識していることが分かる。

 あと、唐突にモノクロになって、ピエールが、ヴィヴァを追い詰めていくシーンでの、ピエールのダンスのような動作が面白い。ジャン・バビレという人が優秀なダンサーだということがよく分かる。そして、例えば、ラスト近く、リュシーが魔法の石に静脈の血を滴らせる演出など、リヴェットの演出は、イマイチ厳格さを欠く見せ方をする部分もあるが、夜のダンスホールでヴィヴァがジャンヌの頭に振り下ろす灰皿の、その重さを感じさせる表現なんかは見事なものだと思う。リヴェットのやり方はブレッソンの厳格さとは全く異なるが、全編、全カット、このようなチャーミングな刺激に溢れている。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)赤い戦車[*]

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